Sanshirō - Chapter 13

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原口原口はらぐち Haraguchi (name)さんの絵絵え paintingはでき上がったでき上あがった was finished。丹青会丹青会たんせいかい Tanseikai (name of a group)はこれを一室一室いっしつ one roomの正面正面しょうめん main facadeにかけた。そうしてその前前まえ front ofに長い長ながい long腰掛け腰掛こしかけ seat; benchを置いた置おいた set; placed。休む休やすむ restためでもある。絵を見る見みる look upon; viewためでもある。休みかつ味わう味あじわう savor; appreciateためでもある。丹青会はこうして、この大作大作たいさく major workに彽徊する彽徊ていかいする linger; dwell多くの多おおくの many; numerous観覧者観覧者かんらんしゃ visitors; viewersに便利便利べんり convenienceを与えた与あたえた provided for。特別の特別とくべつの special; extraordinary待遇待遇たいぐう treatment; considerationである。絵が特別のできだからという。あるいは人の目人ひとの目め people's interest; attentionをひく題題だい subject; themeだからともいう。少数の少数しょうすうの small number; minority (of)ものは、あの女女おんな woman; young ladyを描いた描かいた painted; depictedからだといった。会員会員かいいん (group) memberの一、二一いち、二に one or twoはまったく大きい大おおきい large; grand (in scale)からだと弁解した弁解べんかいした explained; rationalized。大きいには違いないには違ちがいない no doubt that ...。幅幅はば width五寸五寸ごすん 5 sun (about 15 cm; about 6 inches)に余る余あまる be in excess (of)金金きん goldの縁縁がく border; edgeをつけて見ると、見違える見違みちがえる fail to recognizeように大きくなった。

原口さんは開会開会かいかい opening of an eventの前日前日ぜんじつ day before検分検分けんぶん inspection; checkのためちょっと来た来きた came; stopped (by)。腰掛けに腰をおろして腰こしをおろして seat oneself、久しいあいだ久ひさしいあいだ long whileパイプをくわえてながめていた。やがて、ぬっとぬっと suddenly; abruptly立って立たって stand up; rise、場内場内じょうない premises; (exhibition) hallを一巡一巡いちじゅん once around丁寧に丁寧ていねいに carefully; thoroughly回った回まわった made a round。それからまたもとの腰掛けへ帰って帰かえって return (to)、第二の第二だいにの secondパイプをゆっくり吹かした吹ふかした puffed (on); smoked。

「森森もり woods; woodlandの女」の前には開会の当日当日とうじつ appointed day; day in questionから人がいっぱいたかったたかった gathered; swarmed。せっかくの腰掛けは無用の長物無用むようの長物ちょうぶつ useless artifact; extraneous itemとなった。ただ疲れた疲つかれた tired; worn out者者もの personsが、絵を見ないために休んでいた。それでも休みながら「森の女」の評評ひょう commentary; critiqueをしていた者がある。

美禰子美禰子みねこ Mineko (name)は夫夫おっと husbandに連られて連つれられて be accompanied (by)二日目二日目ふつかめ second dayに来た。原口さんが案内をした案内あんないをした guided; escorted。「森の女」の前へ出た出でた arrived (at)時時とき time; moment、原口さんは「どうです」と二人二人ふたり two (people)を見た。夫は「結構結構けっこう superb; splendidです」と言って言いって reply; remark、眼鏡眼鏡めがね glassesの奥奥おく interior; insideからじっと眸を凝らした眸ひとみを凝こらした fixed one's gaze (on something)。

「この団扇団扇うちわ (round) fanをかざして立った姿勢姿勢しせい posture; poseがいい。さすが専門家専門家せんもんか expert; professionalは違います違ちがいます exceptional; extraordinaryね。よくここに気がついた気きがついた took notice; had awareness (of)ものだ。光線光線こうせん light; sunlightが顔顔かお face; countenanceへあたるぐあいがうまい。陰陰かげ shadowと日向日向ひなた sunlightの段落段落だんらく contrast; juxtapositionがかっきりしてかっきりして exact; precise――顔だけでも非常に非常ひじょうに exceedinglyおもしろい変化変化へんか transitionがある」

「いや皆皆みんな all御当人御当人ごとうにん the person in questionのお好みお好このみ preferenceだから。ぼくの手柄手柄てがら achievement; handiworkじゃない」

「おかげさまで」と美禰子が礼を述べた礼れいを述のべた expressed (her) thanks。

「私私わたし I; meも、おかげさまで」と今度今度こんど this timeは原口さんが礼を述べた。

夫は細君細君さいくん wifeの手柄だと聞いて聞きいて hearさもうれしそうである。三人三人さんにん three (people)のうちでいちばん鄭重な鄭重ていちょうな respectful; courteous礼を述べた述のべた voiced; expressedのは夫である。

開会後開会後かいかいご after the opening (of an event)第一の第一だいいちの first土曜土曜どよう Saturdayの昼過ぎ昼過ひるすぎ afternoonにはおおぜいいっしょに来た来きた came; arrived。――広田先生広田ひろた先生せんせい Professor Hirotaと野々宮野々宮ののみや Nonomiya (name)さんと与次郎与次郎よじろう Yojirō (name)と三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)と。四人四人よったり four (people); the four (of them)はよそをあと回しあと回まわし for laterにして、第一に「森森もり forest; woodlandの女女おんな woman; young lady」の部屋部屋へや room; galleryにはいった。与次郎が「あれだ、あれだ」と言う言いう say; exclaim。人人ひと peopleがたくさんたかっているたかっている were gathered; were crowded (around)。三四郎は入口入口いりぐち entranceでちょっと躊躇した躊躇ちゅうちょした hesitated。野々宮さんは超然として超然ちょうぜんとして with indifference; with full composureはいった。

おおぜいのうしろから、のぞきこんだだけで、三四郎は退いた退しりぞいた withdrew; retreated。腰掛け腰掛こしかけ benchによってみんなを待ち合わして待まち合あわして waited onいた。

「すてきに大きな大おおきな largeもの描いた描かいた paintedな」と与次郎が言った。

「佐々木佐々木ささき Sasaki (Yojirō's family name)に買って買かって buy; purchaseもらうつもりだそうだ」と広田先生が言った。

「ぼくより」と言いかけて、見る見みる look aroundと、三四郎はむずかしい顔顔かお face; facial expressionをして腰掛けにもたれている。与次郎は黙ってしまった黙だまってしまった kept silent; held one's tongue。

「色色いろ colorの出し方出だし方かた application; use ofがなかなか洒落て洒落しゃれて be stylish; be done with flairいますね。むしろ意気な意気いきな spirited; tasteful; chic絵絵え paintingだ」と野々宮さんが評した評ひょうした commented on; assessed。

「少し少すこし a little; a bit気がききすぎて気きがききすぎて be too clever; be too thoughtfulいるくらいだ。これじゃ鼓鼓つづみ tsuzumi (hourglass drum whose tension can be adjusted while playing)の音音ね soundのようにぽんぽんする絵はかけないと自白する自白じはくする confess; acknowledgeはずだ」と広田先生が評した。

「なんですぽんぽんする絵というのは」

「鼓の音のように間が抜けて間まが抜ぬけて unsophisticated; guilelessいて、おもしろい絵の事の事こと concerning ...さ」

二人二人ふたり two (people)は笑った笑わらった laughed。二人は技巧技巧ぎこう workmanship; techniqueの評ばかりする。与次郎が異を立てた異いを立たてた objected; dissented; begged to differ。

「里見里見さとみ Satomi (Mineko's family name)さんを描いちゃ、だれが描いたって、間が抜けてるようには描けませんよ」

野々宮さんは目録目録もくろく catalog; listingへ記号をつける記号しるしをつける make a mark (on)ために、隠袋隠袋かくし pocketへ手手て handを入れて入いれて put into鉛筆鉛筆えんぴつ pencilを捜した捜さがした searched for。鉛筆がなくって、一枚一枚いちまい one sheetの活版刷り活版かっぱん刷ずり printed (material)のはがきが出てきた出でてきた appeared; emerged。見ると、美禰子の結婚披露結婚けっこん披露ひろう wedding party; wedding receptionの招待状招待状しょうたいじょう invitationであった。披露はとうに済んだとうに済すんだ was long past。野々宮さんは広田先生といっしょにフロックコートフロックコート frock coatで出席した出席しゅっせきした attended。三四郎は帰京帰京ききょう return to Tōkyōの当日当日とうじつ the day of ...この招待状を下宿下宿げしゅく lodgingsの机机つくえ deskの上上うえ top ofに見た。時期時期じき time; periodはすでに過ぎていた過すぎていた was past; was over。

野々宮さんは、招待状を引き千切って引ひき千切ちぎって tear up床床ゆか floorの上に捨てた捨すてた discarded。やがて先生とともにほかの絵の評に取りかかる取とりかかる engage (in)。与次郎だけが三四郎のそばへ来た。

「どうだ森の女は」

「森の女という題題だい title; nameが悪い悪わるい no good; inappropriate」

「じゃ、なんとすればよいんだ」

三四郎はなんとも答えなかったなんとも答こたえなかった gave no answer。ただ口の中で口くちの中なかで inwardly; to oneself迷羊迷羊ストレイ・シープ stray sheep、迷羊と繰り返した繰くり返かえした repeated。