Sanshirō - Chapter 7

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裏裏うら back (side)から回って回まわって come around (from)ばあさんに聞く聞きく ask; inquireと、ばあさんが小さな小ちいさな small; quiet (voice)声声こえ voiceで、与次郎与次郎よじろう Yojirō (name)さんはきのうからお帰りなさらないお帰かえりなさらない didn't return; didn't come homeと言う言いう say; communicate。三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)は勝手口勝手口かってぐち kitchen door; service entranceに立って立たって stand (in)考えた考かんがえた thought; considered。ばあさんは気をきかして気きをきかして exercise tact; employ good sense、まあおはいりなさい。先生先生せんせい professorは書斎書斎しょさい studyにおいでですからと言いながら、手手て handsを休めずに休やすめずに without resting、膳椀膳椀ぜんわん dishesを洗って洗あらって washいる。今今いま (just) now晩食晩食ゆうめし evening meal; dinnerがすんだばかりのところらしい。

三四郎は茶の間茶ちゃの間ま tea room; hearth roomを通り抜けて通とおり抜ぬけて pass through、廊下伝いに廊下ろうか伝づたいに along the corridor書斎の入口入口いりぐち entranceまで来た来きた came (to)。戸戸と doorがあいている。中中なか inside; withinから「おい」と人人ひと a personを呼ぶ呼よぶ call to声がする。三四郎は敷居敷居しきい thresholdのうちへはいった。先生は机机つくえ deskに向かって向むかって face; be turned (toward)いる。机の上上うえ top ofには何何なに whatがあるかわからない。高い高たかい tall; extended背背せ backが研究研究けんきゅう workを隠して隠かくして hide; block from viewいる。三四郎は入口に近く近ちかく close (to)すわって、

「御勉強御勉強おべんきょう studiesですか」と丁寧に丁寧ていねいに politely聞いた。先生は顔顔かお faceをうしろへねじ向けた。髭髭ひげ mustacheの影影かげ form; shapeが不明瞭に不明瞭ふめいりょうに indistinctlyもじゃもじゃしてもじゃもじゃして shaggy; disheveledいる。写真版写真版しゃしんばん photographic plateで見た見みた sawだれかの肖像肖像しょうぞう portrait; likenessに似て似にて resembleいる。

「やあ、与次郎かと思ったら思おもったら thought、君君きみ youですか、失敬した失敬しっけいした pardon; sorry (about that)」と言って、席を立った席せきを立たった rose from (his) chair。机の上には筆筆ふで brushと紙紙かみ paperがある。先生は何か書いて書かいて write; composeいた。与次郎の話にの話はなしに according to ...、うちの先生は時々時々ときどき sometimes; occasionally何か書いている。しかし何を書いているんだか、ほかの者者もの personsが読んで読よんで readもちっともわからない。生きて生いきて be alive; be livingいるうちに、大著述大著述だいちょじゅつ great work; master treatiseにでもまとめられれば結構結構けっこう fine; splendidだが、あれで死んで死しんで die; pass awayしまっちゃあ、反古反古ほご wastepaperがたまるばかりだ。じつにつまらない。と嘆息して嘆息たんそくして sigh; lamentいたことがある。三四郎は広田広田ひろた (Professor) Hirotaの机の上を見て、すぐ与次郎の話を思い出した思おもい出だした remembered; recalled。

「おじゃまなら帰ります。べつだんの用事用事ようじ business; affairs; matters of importanceでもありません」

「いや、帰ってもらうほどじゃまでもありません。こっちの用事もべつだんのことでもないんだから。そう急に急きゅうに quickly片づける片かたづける take care of; finishたちたち quality; natureのものをやっていたんじゃない」

三四郎はちょっと挨拶挨拶あいさつ reply; responseができなかった。しかし腹のうちでは腹はらのうちでは down inside; to oneself、この人のような気分気分きぶん mood; temperamentになれたら、勉強も楽に楽らくに comfortably; with easeできてよかろうと思った。しばらくしてから、こう言った。

「じつは佐々木佐々木ささき Sasaki (Yojirō's family name)君君くん (suffix of familiarity for males)のところへ来たんですが、いなかったものですから……」

「ああ。与次郎はなんでもゆうべから帰らないようだ。時々漂泊して漂泊ひょうはくして wander; roam困る困こまる be cause for concern」

「何か急に用事でもできたんですか」

「用事はけっしてできる男男おとこ fellowじゃない。ただ用事をこしらえるこしらえる contrive; cook up男でね。ああいうばかは少ない少すくない few」

三四郎はしかたがないから、

「なかなか気楽気楽きらく easygoing; carefreeですな」と言った。

「気楽気楽きらく easygoing; carefreeならいいけれども。与次郎与次郎よじろう Yojirō (name)のは気楽なのじゃない。気が移るの気きが移うつるの freewheeling; fickleで――たとえば田田た rice fieldの中中なか middleを流れて流ながれて flow (through)いる小川小川おがわ small river; streamのようなものと思って思おもって think of (as); considerいれば間違いはない間違まちがいはない would not be a mistake; would be accurate。浅くて浅あさくて shallow狭い狭せまい narrow。しかし水水みず waterだけはしじゅうしじゅう continuously (= 始終しじゅう)変って変かわって change; be in transitionいる。だから、する事事こと matters; affairsが、ちっとも締まりがない締しまりがない are not brought to conclusion。縁日縁日えんにち temple festivalへひやかしひやかし window shopping; browsingになど行く行いく goと、急に急きゅうに suddenly思い出した思おもい出だした rememberedように、先生先生せんせい Professor松松まつ (dwarf) pineを一鉢一鉢ひとはち one potお買いなさいお買かいなさい please buyなんて妙な妙みょうな curious; oddことを言う言いう say; bring up。そうして買うともなんとも言わないうちに値切って値切ねぎって bargain; negotiate the price down買ってしまう。その代りその代かわり on the one hand縁日ものを買うことなんぞはじょうずでね。あいつに買わせるとたいへん安く安やすく at a low price買える。そうかと思うと、夏夏なつ summerになってみんなが家家うち houseを留守留守るす absence; being away (from home)にするときなんか、松を座敷座敷ざしき living room; parlorへ入れた入いれた put into; place inまんま雨戸雨戸あまど storm doorsをたてて錠をおろして錠じょうをおろして lock upしまう。帰って帰かえって return (home)みると、松が温気温気うんき heat; sultry airでむれてむれて molderまっ赤まっ赤か bright redになっている。万事万事ばんじ all thingsそういうふうでまことに困る困こまる be troubled; be at one's wits' end」

実実じつ the truthをいうと三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)はこのあいだ与次郎に二十円二十にじゅう円えん twenty yen貸した貸かした loaned。二週間二週間にしゅうかん two weeks後後ご later; henceには文芸時評文芸時評ぶんげいじひょう Literary Review (magazine)社社しゃ companyから原稿料原稿料げんこうりょう payment for a manuscriptが取れる取とれる will receiveはずだから、それまで立替えて立替たてかえて front; advance (money to someone)くれろと言う。事理事理わけ reasonを聞いて聞きいて ask; inquireみると、気の毒気きの毒どく unfortunate; pitiableであったから、国国くに home country; one's native placeから送って送おくって sent; remittedきたばかりの為替為替かわせ money orderを五円五円ごえん five yen引いて引ひいて subtract; take out、余り余あまり the rest; the remainderはことごとくことごとく all; in its entirety貸してしまった。まだ返す返かえす return; pay back期限期限きげん term; periodではないが、広田の話話はなし talk; storyを聞いてみると少々少々しょうしょう a bit; somewhat心配心配しんぱい worry; concernになる。しかし先生にそんな事は打ち明けられない打うち明あけられない cannot divulgeから、反対に反対はんたいに conversely、

「でも佐々木佐々木ささき Sasaki (Yojirō's family name)君君くん (suffix of familiarity for males)は、大いに大おおいに greatly先生に敬服して敬服けいふくして have admiration (for); hold in high esteem、陰陰かげ background; behind the scenesでは先生のためになかなか尽力尽力じんりょく efforts; endeavorしています」と言うと、先生はまじめになって、

「どんな尽力をしているんですか」と聞きだした。ところが「偉大なる偉大いだいなる great; mighty暗闇暗闇くらやみ darkness; void」その他その他た (and) othersすべて広田先生広田ひろた先生せんせい Professor Hirotaに関する関かんする concerning与次郎の所為所為しょい activities; doingsは、先生に話してはならないと、当人当人とうにん the person in questionから封じられて封ふうじられて be sworn to silenceいる。やりかけた途中途中とちゅう in the middle ofでそんな事が知れる知しれる become known; come to lightと先生にしかられるにきまってるから黙って黙だまって keep silentいるべきだという。話していい時時とき time; occasionにはおれが話すと明言して明言めいげんして state clearlyいるんだからしかたがない。三四郎は話をそらしてそらして avert; turn away (from)しまった。

三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)が広田広田ひろた (Professor) Hirotaの家家うち houseへ来る来くる come (to); visitにはいろいろな意味意味いみ meaning; senseがある。一つ一ひとつ one (thing)は、この人人ひと personの生活生活せいかつ life; lifestyleその他その他た and other thingsが普通普通ふつう ordinary; usualのものと変っている変かわっている be different。ことに自分の自分じぶんの one's own性情性情せいじょう nature; dispositionとはまったく容れない容いれない not consistent with; not compatible withようなところがある。そこで三四郎はどうしたらああなるだろうという好奇心好奇心こうきしん curiosityから参考参考さんこう reference; consultationのため研究研究けんきゅう study; investigationに来る。次次つぎ nextにこの人の前前まえ before; front ofに出る出でる appearとのん気のん気き at ease; carefreeになる。世の中世よの中なか society; the worldの競争競争きょうそう competitionがあまり苦苦く concern; source of anxietyにならない。野々宮野々宮ののみや Nonomiya (name)さんも広田先生広田ひろた先生せんせい Professor Hirotaと同じく同おなじく in the same manner世外世外せがい aloofness; detachmentの趣趣おもむき tenor; appearanceはあるが、世外の功名心功名心こうみょうしん ambition; aspirationのために、流俗流俗りゅうぞく conventional; mainstreamの嗜欲嗜欲しよく appetite for; fondness ofを遠ざけて遠とおざけて keep away from; abstain fromいるかのように思われる思おもわれる it seemed that。だから野々宮さんを相手相手あいて companion; the other partyに二人ぎり二人ふたりぎり two (people) aloneで話して話はなして talk; converseいると、自分自分じぶん oneselfもはやく一人前の一人前いちにんまえの competent; fully capable仕事仕事しごと workをして、学海学海がっかい academic world; learned circlesに貢献しなくては済まない貢献こうけんしなくては済すまない must contribute to; must make one's markような気気き feelingが起こる起おこる arise; occur。いらついてたまらないいらついてたまらない be nerve-wracked。そこへゆくと広田先生は太平太平たいへい peace; tranquilityである。先生は高等学校高等学校こうとうがっこう high school (equivalent to modern-day college)でただ語学語学ごがく foreign language studyを教える教おしえる teachだけで、ほかになんの芸芸げい skill; accomplishmentもない――といっては失礼失礼しつれい discourtesyだが、ほかになんらの研究も公けにしない公おおやけけにしない not disclose; not make public。しかも泰然と泰然たいぜんと calmly; self-possessed取り澄まして取とり澄すまして look contentいる。そこに、こののん気の源源みなもと source; originは伏在して伏在ふくざいして lie concealedいるのだろうと思う。三四郎は近ごろ近ちかごろ recently女女おんな young ladyにとらわれたとらわれた be captured by; be slave to。恋人恋人こいびと sweetheartにとらわれたのなら、かえっておもしろいが、ほれられているんだか、ばかにされているんだか、こわがっていいんだか、さげすんでさげすんで despise; look down onいいんだか、よすべきよすべき should stop; should desistだか、続けべき続つづけべき should continueだかわけのわからないとらわれ方とらわれ方かた manner of captivationである。三四郎はいまいましくいまいましく vexed; confoundedなった。そういう時時とき times; occasionsは広田さんにかぎる。三十分三十分さんじっぷん thirty minutesほど先生と相対して相対そうたいして keep company withいると心持ち心持こころもち feeling; moodが悠揚悠揚ゆうよう calm; composedになる。女の一人一人ひとり one (person)や二人どうなってもかまわないと思う。実実じつ truthをいうと、三四郎が今夜今夜こんや this evening出かけてきたのは七分方七分方しちぶがた for the most part; by and large (lit: seven tenths)この意味である。

訪問訪問ほうもん visit; call理由理由りゆ reasonの第三第三だいさん third (one)はだいぶ矛盾矛盾むじゅん contradiction; inconsistencyしている。自分自分じぶん oneselfは美禰子美禰子みねこ Mineko (name)に苦しんで苦くるしんで suffer; agonize (over)いる。美禰子のそばに野々宮野々宮ののみや Nonomiya (name)さんを置く置おく set; placeとなお苦しんでくる。その野々宮さんにもっとも近い近ちかい close; intimateものはこの先生先生せんせい professorである。だから先生の所所ところ placeへ来る来くる come (to)と、野々宮さんと美禰子との関係関係かんけい connection; relationshipがおのずからおのずから naturally; as a matter of course明瞭明瞭めいりょう apparent; clearになってくるだろうと思う思おもう think; imagine。これが明瞭になりさえすれば、自分の態度態度たいど manner; behaviorも判然判然はんぜん definitivelyきめることができる。そのくせ二人二人ふたり two (people)の事の事こと concerning ...をいまだかつて先生に聞いた聞きいた asked; inquiredことがない。今夜今夜こんや this eveningは一つ一ひとつ once聞いてみようかしらと、心を動かした心こころを動うごかした resolved (to do something)。

「野々宮さんは下宿なすった下宿げしゅくなすった took up lodgingsそうですね」

「ええ、下宿したそうです」

「家家うち houseをもった者者もの personが、また下宿をしたら不便不便ふべん awkward; inconvenientだろうと思いますが、野々宮さんはよく……」

「ええ、そんな事にはいっこう無頓着無頓着むとんじゃく indifferent; unconcernedなほうでね。あの服装服装ふくそう clothing; attireを見て見みて look atもわかる。家庭的な家庭的かていてきな domestic; family-oriented人人ひと personじゃない。その代りその代かわり on the other hand学問学問がくもん scholarship; researchにかけると非常に非常ひじょうに exceedingly神経質神経質しんけいしつ obsessive; meticulousだ」

「当分ああやっておいでのつもりなんでしょうか」

「わからない。また突然突然とつぜん suddenly家を持つ持もつ have; ownかもしれない」

「奥さん奥おくさん wifeでもお貰いになるお貰もらいになる take; receiveお考えお考かんがえ idea; notionはないんでしょうか」

「あるかもしれない。いいのを周旋して周旋しゅうせんして introduce; recommendやりたまえ」

三四郎は苦笑い苦笑にがわらい forced smile; strained laughをして、よけいな事を言った言いった said; broached (a subject)と思った。すると広田広田ひろた (Professor) Hirotaさんが、

「君君きみ youはどうです」と聞いた。

「私私わたし I; meは……」

「まだ早い早はやい (too) soonですね。今今いま now; the presentから細君細君さいくん wifeを持っちゃたいへんだ」

「国国くに country; one's native placeの者は勧めます勧すすめます recommend; suggestが」

「国のだれが」

「母母はは motherです」

「おっかさんのいうとおり持つ気気き inclinationになりますか」

「なかなかなりません」

広田広田ひろた (Professor) Hirotaさんは髭髭ひげ mustacheの下下した below; beneathから歯歯は teethを出して出だして expose笑った笑わらった laughed。わりあいにきれいな歯を持って持もって haveいる。三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)はその時時とき time; moment急に急きゅうに suddenlyなつかしい心持ち心持こころもち sentimentがした。けれどもそのなつかしさは美禰子美禰子みねこ Mineko (name)を離れて離はなれて be distant fromいる。野々宮野々宮ののみや Nonomiya (name)を離れている。三四郎の眼前眼前がんぜん before one's eyes; immediateの利害利害りがい gain or loss; interestには超絶した超絶ちょうぜつした transcendedなつかしさであった。三四郎はこれで、野々宮などの事事こと matters; affairsを聞く聞きく ask (about)のが恥ずかしい恥はずかしい shameful; disgraceful気気き feelingがしだして、質問質問しつもん questionsをやめてしまった。すると広田先生がまた話しだした話はなしだした spoke。――

「おっかさんのいうことはなるべく聞いてあげるがよい。近ごろ近ちかごろ recent timesの青年青年せいねん youthは我々我々われわれ we; us時代時代じだい age; (time) periodの青年と違って違ちがって different (from)自我自我じが self; egoの意識意識いしき consciousness; awarenessが強すぎて強つよすぎて too strongいけない。我々の書生書生しょせい studentをしているころには、する事なす事一としてする事ことなす事こと一ひとつとして in everything (we) did他他ひと others; other peopleを離れたことはなかった。すべてが、君君きみ sovereign; rulerとか、親親おや parentsとか、国国くに region; countryとか、社会社会しゃかい society; communityとか、みんな他本位本位ほんい standard; principle; basisであった。それを一口に一口ひとくちに in a word; in shortいうと教育教育きょういく educationを受ける受うける receiveものがことごとくことごとく one and all偽善家偽善家ぎぜんか hypocriteであった。その偽善偽善ぎぜん hypocrisyが社会の変化変化へんか change; transformationで、とうとう張り通せなくなった張はり通とおせなくなった became unsustainable結果結果けっか (as a) result (of)、漸々漸々ぜんぜん gradually; by degrees自己自己じこ self; oneself本位を思想思想しそう thought; ideology行為行為こうい acts; conductの上上うえ top ofに輸入する輸入ゆにゅうする import; introduceと、今度今度こんど this timeは我意識我意識がいしき self awarenessが非常に非常ひじょうに exceedingly発展しすぎて発展はってんしすぎて overdevelopしまった。昔昔むかし former timesの偽善家に対してに対たいして in contrast to、今今いま now; the presentは露悪家露悪家ろあくか raw agent; non-pretender; self-professed deviantばかりの状態状態じょうたい circumstances; situationにある。――君君きみ you (used here as form of address)、露悪家という言葉言葉ことば word; term; expressionを聞いたことがありますか」

「いいえ」

「今ぼくが即席に即席そくせきに on the spot; off the cuff作った作つくった created; came up with言葉だ。君もその露悪家の一人一人いちにん one member――だかどうだか、まあたぶんそうだろう。与次郎与次郎よじろう Yojirō (name)のごときにいたるとその最たる最さいたる quintessential; conspicuousものだ。あの君の知ってる知しってる be acquainted with里見里見さとみ Satomi (Mineko's family name)という女女おんな young ladyがあるでしょう。あれも一種一種いっしゅ one type (of)の露悪家で、それから野々宮の妹妹いもうと younger sisterね、あれはまた、あれなりに露悪家だから面白い面白おもしろい interesting; intriguing。昔は殿様殿様とのさま feudal lordと親父親父おやじ one's father; one's bossだけが露悪家ですんでいたが、今日今日こんにち today; the presentでは各自各自かくじ each individual同等同等どうとう equalの権利権利けんり rights; privilegeで露悪家になりたがる。もっとも悪い悪わるい bad; unfavorable事でもなんでもない。臭い臭くさい smelly; stinkingものの蓋蓋ふた lidをとれば肥桶肥桶こえたご night-soil bucket; manure bucketで、見事な見事みごとな splendid; magnificent形式形式けいしき form; appearanceをはぐとたいていは露悪露悪ろあく exposing the ugly sideになるのは知れ切って知しれ切きって is common knowledge; is widely knownいる。形式だけ見事だって面倒面倒めんどう trouble; botherなばかりだから、みんな節約して節約せつやくして save (effort); economize木地木地きじ unfinished woodだけで用を足して用ようを足たして accomplish a taskいる。はなはだ痛快痛快つうかい thrilling; exhilaratingである。天醜爛漫天醜てんしゅう爛漫らんまん candid ugliness (word play on 天真てんしん爛漫らんまん = simplicity; innocence)としている。ところがこの爛漫爛漫らんまん full bloom; full gloryが度度ど degree; extentを越す越こす exceedと、露悪家同志同志どうし comrades; kindred soulsがお互いにお互たがいに mutually; with respect to each other不便不便ふべん incommodiousnessを感じて感かんじて feel; perceiveくる。その不便がだんだん高じて高こうじて heighten; intensify極端極端きょくたん extremeに達した達たっした reached; progressed to時利他主義利他りた主義しゅぎ altruismがまた復活する復活ふっかつする be revived; return。それがまた形式に流れて流ながれて tend toward腐敗する腐敗ふはいする be corrupted; become rottenとまた利己主義利己りこ主義しゅぎ egoismに帰参する帰参きさんする revert to。つまり際限際限さいげん limits; boundsはない。我々はそういうふうにして暮らして暮くらして live; pass one's daysゆくものと思えば思おもえば think of; consider (as)さしつかえない。そうしてゆくうちに進歩する進歩しんぽする progress; advance。英国英国えいこく Englandを見たまえ見みたまえ take a look as。この両主義両りょう主義しゅぎ both principlesが昔からうまく平衡平衡へいこう balance; equilibriumがとれている。だから動かない動うごかない doesn't move; goes nowhere。だから進歩しない。イブセンイブセン Henrik Johan Ibsen (Norwegian Playwright, 1828 – 1906, whose works include A Doll's House)も出なければ出でなければ does not appear; does not ariseニイチェニイチェ Friedrich Wilhelm Nietzsche (German philosopher; 1844–1900)も出ない。気の毒な気きの毒どくな unfortunate; pitiableものだ。自分自分じぶん oneselfだけは得意得意とくい proud; self-satisfiedのようだが、はたから見れば堅くなって堅かたくなって become stiff; become rigid、化石化石せきか fossilization; petrifactionしかかっている。……」

三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)は内心内心ないしん inwardly; to oneself感心した感心かんしんした felt admiration; was impressedようなものの、話話はなし conversationがそれてそれて wander; go astrayとんだとんだ unexpectedところへ曲がって曲まがって turn (toward)、曲がりなりに太くなってゆく太ふとくなってゆく gain breadthので、少し少すこし a little; a bit驚いて驚おどろいて be surprisedいた。すると広田広田ひろた (Professor) Hirotaさんもようやく気がついた気きがついた took notice; realized。

「いったい何何なに whatを話していたのかな」

「結婚結婚けっこん marriageの事の事こと concerning ...です」

「結婚?」

「ええ、私私わたし I; meが母母はは motherの言う言いう advise; recommendことを聞いて聞きいて listen to……」

「うん、そうそう。なるべくおっかさんの言うことを聞かなければいけない」と言ってにこにこしている。まるで子供子供こども childに対するに対たいする dealing with ...ようである。三四郎はべつに腹も立たなかった腹はらも立たたなかった was not offended。

「我々我々われわれ we; usが露悪家露悪家ろあくか self-professed deviantsなのは、いいですが、先生先生せんせい professor時代時代じだい times; eraの人人ひと peopleが偽善家偽善家ぎぜんか hypocritesなのは、どういう意味意味いみ meaningですか」

「君君きみ you (used here as form of address)、人から親切にされて親切しんせつにされて be treated kindly愉快愉快ゆかい pleasant; agreeableですか」

「ええ、まあ愉快です」

「きっと? ぼくはそうでない、たいへん親切にされて不愉快不愉快ふゆかい discomfort; discontentな事がある」

「どんな場合場合ばあい situation; circumstancesですか」

「形式形式けいしき form; appearanceだけは親切にかなってかなって meet the criteria ofいる。しかし親切自身自身じしん itselfが目的目的もくてき objectiveでない場合」

「そんな場合があるでしょうか」

「君、元日元日がんじつ New Year's Dayにおめでとうおめでとう (wishing you) happiness; successと言われて、じっさいおめでたい気気き feelingがしますか」

「そりゃ……」

「しないだろう。それと同じくそれと同おなじく in the same way腹腹はら bellyをかかえて笑う笑わらう laughだの、ころげかえって笑うだのというやつに、一人一人ひとり one (person)だってじっさい笑ってるやつはない。親切もそのとおり。お役目にお役目やくめに perfunctorily; from a mere sense of duty親切をしてくれるのがある。ぼくが学校学校がっこう schoolで教師教師きょうし instructorをしているようなものでね。実際の実際じっさいの actual目的目的もくてき goal; objectiveは衣食衣食いしょく food and clothing; one's livelihoodにあるんだから、生徒生徒せいと studentsから見たら見みたら look at; seeさだめてさだめて surely; no doubt不愉快だろう。これに反してこれに反はんして conversely; on the other hand与次郎与次郎よじろう Yojirō (name)のごときは露悪党露悪党ろあくとう the deviant factionsの領袖領袖りょうしゅう leader; chiefだけに、たびたびぼくに迷惑をかけて迷惑めいわくをかけて annoy; cause trouble for、始末におえぬ始末しまつにおえぬ unmanageable; incorrigibleいたずら者いたずら者もの troublemakerだが、悪気悪気にくげ ill will; evil intentがない。可愛らしい可愛かわいらしい charming; endearingところがある。ちょうどアメリカ人アメリカ人じん Americansの金銭金銭きんせん moneyに対して露骨な露骨ろこつな frank; openのと一般一般いっぱん generally the same (as)だ。それ自身が目的である。それ自身が目的である行為行為こうい doings; conductほど正直な正直しょうじきな honest; candidものはなくって、正直ほど厭味のない厭味いやみのない unaffected; pleasingものはないんだから、万事万事ばんじ all things正直に出られない出でられない cannot approach; cannot engageような我々時代我々われわれ時代じだい our generation; my generationの、こむずかしい教育教育きょういく educationを受けた受うけた receivedものはみんな気障気障きざ affected; pretentiousだ」

ここまでの理屈理屈りくつ logic; reasoning; argumentは三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)にもわかっている。けれども三四郎にとって、目下目下もっか at present痛切な痛切つうせつな acute; poignant問題問題もんだい problem; difficultyは、だいたいにわたっての理屈ではない。実際に実際じっさいに actually; in fact交渉交渉こうしょう connection; interactionのある、ある格段な格段かくだんな particular; special相手相手あいて companion; other partyが、正直正直しょうじき forthright; sincereか正直でないかを知りたい知しりたい want to know; need to knowのである。三四郎は腹の中で腹はらの中なかで inwardly; to oneself美禰子美禰子みねこ Mineko (name)の自分自分じぶん oneselfに対するに対たいする with respect to; in relation to素振素振そぶり behavior; bearingをもう一ぺんもう一いっぺん one more time考えて考かんがえて consider; think overみた。ところが気障気障きざ affected; pretentiousか気障でないかほとんど判断判断はんだん judgment; discernmentができない。三四郎は自分の感受性感受性かんじゅせい sensibility; receptivityが人一倍人一倍ひといちばい more than others; especially鈍い鈍にぶい dull; obtuseのではなかろうかと疑いだした疑うたがいだした began to question (whether ...)。

その時時とき time; moment広田広田ひろた (Professor) Hirotaさんは急に急きゅうに suddenlyうんと言って言いって said, voiced、何か何なにか something思い出した思おもい出だした remembered; recalledようである。

「うん、まだある。この二十世紀二十世紀にじゅっせいき twentieth centuryになってから妙な妙みょうな odd; curiousのが流行る流行はやる be prevalent; become common。利他本位利他りた本位ほんい altruistic principlesの内容内容ないよう matter; substanceを利己本位利己りこ本位ほんい egoistic principlesでみたすみたす satisfy; fulfillというむずかしいやり口やり口くち method; meansなんだが、君君きみ you (used here a form of address)そんな人人ひと personに出会った出会であった encounteredですか」

「どんなのです」

「ほかの言葉言葉ことば words; expressionでいうと、偽善偽善ぎぜん hypocrisyを行う行おこなう carry outに露悪露悪ろあく exposing the ugly side; open deviancyをもってする。まだわからないだろうな。ちと説明し方説明せつめいし方かた way of explainingが悪い悪わるい no good; inadequateようだ。――昔昔むかし earlier timesの偽善家偽善家ぎぜんか hypocriteはね、なんでも人によく思われたい思おもわれたい be regarded; be thought of (as)が先に立つ先さきに立たつ first and foremostんでしょう。ところがその反対反対はんたい opposite; converseで、人の感触感触かんしょく sensibilityを害する害がいする disturb; offendために、わざわざ偽善をやる。横横よこ side; sidewaysから見て見みて look at; viewも縦縦たて up and downから見ても、相手には偽善としか思われないようにしむけてゆく。相手はむろんいやな心持ち心持こころもち feeling; impressionがする。そこで本人本人ほんにん the person in questionの目的目的もくてき objectiveは達せられる達たっせられる be achieved。偽善を偽善そのままで先方先方せんぽう the other partyに通用させよう通用てきようさせよう apply; put to use (on)とする正直なところが露悪家露悪家ろあくか self-professed deviantの特色特色とくしょく idiosyncrasyで、しかも表面上表面上ひょうめんじょう on the surfaceの行為言語行為こうい言語げんご words and deedsはあくまでも善善ぜん virtuous; benevolentに違いないに違ちがいない are without doubt ...から、――そら、二位一体二位にい一体いったい two in one (play on 三位さんい一体いったい = Trinity)というようなことになる。この方法方法ほうほう methodを巧妙に巧妙こうみょうに cleverly; deftly用いる用もちいる use; apply者者もの personsが近来近来きんらい recently; of lateだいぶふえてきたようだ。きわめて神経神経しんけい nerves; sensitivityの鋭敏鋭敏えいびん sharp; keenになった文明文明ぶんめい cultured人種人種じんしゅ type (of person)が、もっとも優美に優美ゆうびに elegantly; with grace露悪家になろうとすると、これがいちばんいい方法になる。血を出さなければ血ちを出ださなければ without spilling blood人が殺せない殺ころせない can't killというのはずいぶん野蛮な野蛮やばんな barbaric話話はなし talkだからな君、だんだん流行らなくなる」

広田先生広田ひろた先生せんせい Professor Hirotaの話し方話はなし方かた manner of speakingは、ちょうど案内者案内者あんないしゃ guideが古戦場古戦場こせんじょう ancient battlefieldを説明する説明せつめいする explainようなもので、実際実際じっさい realityを遠くから遠とおくから from a distanceながめた地位地位ちい positionにみずからを置いて置おいて set; placeいる。それがすこぶる楽天の楽天らくてんの sanguine趣趣おもむき tenor; tendency towardがある。あたかも教場教場きょうじょう classroomで講義講義こうぎ lectureを聞く聞きく hear; listen toと一般一般いっぱん generally the same (as)の感感かん feeling; impressionを起こさせる起おこさせる give rise to。しかし三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)にはこたえた。念頭念頭ねんとう one's mindに美禰子美禰子みねこ Mineko (name)という女女おんな young ladyがあって、この理論理論りろん theoryをすぐ適用できる適用てきようできる can applyからである。三四郎は頭頭あたま head; mindの中中なか insideにこの標準標準ひょうじゅん standardを置いて、美禰子のすべてを測って測はかって measure; assessみた。しかし測り切れない測はかり切きれない cannot manage to assessところがたいへんある。先生先生せんせい professorは口を閉じて口くちを閉とじて stop speaking、例のごとく例れいのごとく as usual; as is one's habit鼻鼻はな nose; nostrilsから哲学の哲学てつがくの philosophical煙煙けむり smokeを吐き始めた吐はき始はじめた began to expel。

ところへ玄関玄関げんかん entrance hall; entrywayに足音足音あしおと sound of footstepsがした。案内も乞わずに乞こわずに without soliciting; without requesting廊下伝い廊下伝ろうかづたい along the corridorにはいって来るはいって来くる come in; enter。たちまち与次郎与次郎よじろう Yojirō (name)が書斎書斎しょさい studyの入口入口いりぐち entrance; doorwayにすわって、

「原口原口はらぐち Haraguchi (name)さんがおいでになりました」と言う言いう said; announced。ただ今帰りましたただ今いま帰かえりました I'm homeという挨拶挨拶あいさつ greeting; salutationを省いて省はぶいて dispense withいる。わざと省いたのかもしれない。三四郎にはぞんざいなぞんざいな rough; slapdash目礼目礼もくれい nod (in greeting); acknowledgementをしたばかりですぐに出ていった出でていった went out; left。

与次郎と敷居敷居しきい thresholdぎわですれ違ってすれ違ちがって pass (in opposite directions); brush by、原口さんがはいって来た。原口さんはフランス式フランス式しき French (style)の髭髭ひげ mustacheをはやして、頭を五分刈五分刈ごぶがり close-cropped (haircut)にした、脂肪の多い脂肪しぼうの多おおい corpulent; portly男男おとこ manである。野々宮野々宮ののみや Nonomiya (name)さんより年年とし years; ageが二つ三つ二ふたつ三みっつ two or three上上うえ older (in age)に見える見みえる appear (to be)。広田先生よりずっときれいな和服和服わふく Japanese clothes; Japanese-style dressを着て着きて wearいる。

「やあ、しばらく。今今いま now; the presentまで佐々木佐々木ささき Sasaki (Yojirō's family name)が家家うち one's homeへ来ていてね。いっしょに飯飯めし dinnerを食ったり食くったり eat何か何なにか somethingして――それから、とうとう引っ張り出されて引ひっ張ぱり出だされて be dragged along……」とだいぶ楽天的な楽天的らくてんてきな cheerful; happy-go-lucky口調口調くちょう tone (of voice)である。そばにいるとしぜん陽気陽気ようき in fine spirits; upliftedになるような声声こえ voiceを出す出だす put forth。三四郎は原口という名前名前なまえ nameを聞いた時時とき time; momentから、おおかたあの画工画工えかき painter; artistだろうと思って思おもって thought; assumedいた。それにしても与次郎は交際家交際家こうさいか society manだ。たいていな先輩先輩せんぱい superior; alumnusとはみんな知合い知合しりあい acquaintanceになっているからえらいと感心して感心かんしんして be impressed堅くなった堅かたくなった showed reserve。三四郎は年長者年長者ねんちょうしゃ senior; elderの前前まえ front ofへ出る出でる appearと堅くなる。九州流九州流きゅうしゅうりゅう Kyūshū styleの教育教育きょういく education; upbringingを受けた受うけた received結果結果けっか consequence ofだと自分自分じぶん oneselfでは解釈して解釈かいしゃくして interpret; construeいる。

やがて主人主人しゅじん master (of the house)が原口原口はらぐち Haraguchi (name)に紹介紹介しょうかい introductionしてくれる。三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)は丁寧に丁寧ていねいに politely; respectfully頭を下げた頭あたまを下さげた bowed。向こう向むこう the other partyは軽く軽かるく lightly会釈した会釈えしゃくした nodded。三四郎はそれから黙って黙だまって remain silent二人二人ふたり two (people)の談話談話だんわ talk; conversationを承って承うけたまわって hear; listen toいた。

原口さんはまず用談用談ようだん business matterから片づける片かたづける take care ofと言って言いって say; state、近いうち近ちかいうち shortly; soonに会会かい gathering; partyをするから出てくれ出でてくれ please come; please take partと頼んで頼たのんで requestいる。会員会員かいいん membersと名のつく名なのつく be renownedほどのりっぱなものはこしらえないつもりだが、通知通知つうち notice; inviteを出す出だす send out (to)ものは、文学者文学者ぶんがくしゃ writersとか芸術家芸術家げいじゅつか artistsとか、大学大学だいがく universityの教授教授きょうじゅ professorsとか、わずかな人数人数にんすう number of peopleにかぎっておくからさしつかえはない。しかもたいてい知り合い知しり合あい acquaintanceのあいだだから、形式形式けいしき formalityはまったく不必要不必要ふひつよう unnecessaryである。目的目的もくてき objective; purposeはただおおぜい寄って寄よって come together晩餐晩餐ばんさん dinnerを食う食くう eat。それから文芸文芸ぶんげい art and literature上上じょう concerning ...有益な有益ゆうえきな beneficial; worthwhile談話を交換する交換こうかんする exchange。そんなものである。

広田先生広田ひろた先生せんせい Professor Hirotaは一口一口ひとくち in a word; simply「出よう出でよう (I'll) attend」と言った。用事用事ようじ businessはそれで済んで済すんで be concludedしまった。用事はそれで済んでしまったが、それから後後あと afterの原口さんと広田先生の会話会話かいわ conversationがすこぶるおもしろかった。

広田先生が「君君きみ you近ごろ近ちかごろ recently何何なに whatをしているかね」と原口さんに聞く聞きく ask; inquireと、原口さんがこんな事こんな事こと as followsを言う。

「やっぱり一中節一中節いっちゅうぶし itchūbushi (style of doleful narrative singing, often accompanied by shamisen)を稽古して稽古けいこして practiceいる。もう五つ五いつつ five (things)ほど上げた上あげた (chalked) up; mastered。花紅葉吉原八景花はな紅葉もみじ吉原よしわら八景はっけい 'Flowers and Fall Colors - Eight Yoshiwara Scenes'だの、小稲半兵衛唐崎心中小稲こいな半兵衛はんべえ唐崎からさき心中しんじゅう 'Lovers Suicide of Koina and Hanbei at Karasaki'だのってなかなかおもしろいのがあるよ。君も少し少すこし a little; a bitやってみないか。もっともありゃ、あまり大きな大おおきな big; loud (voice)声声こえ voiceを出しちゃいけないんだってね。本来本来ほんらい originally; historicallyが四畳半四畳半よじょうはん four and a half mat (about 7 sq meters; about 80 sq ft)の座敷座敷ざしき parlorにかぎったものだそうだ。ところがぼくがこのとおり大きな声だろう。それに節回し節回ふしまわし melody; intonationがあれでなかなか込み入って込こみ入いって intricate; complicatedいるんで、どうしてもうまくいかん。こんだこんだ next time; another time (= 今度こんど)一つ一ひとつ one (thing)やるから聞いてくれたまえ」

広田先生広田ひろた先生せんせい Professor Hirotaは笑って笑わらって smile; grinいた。すると原口原口はらぐち Haraguchi (name)さんは続き続つづき continuation; follow-onをこういうふうに述べた述のべた stated; mentioned。

「それでもぼくはまだいいんだが、里見里見さとみ Satomi (Mineko's family name)恭助恭助きょうすけ Kyōsuke (name of Mineko's older brother)ときたら、まるで形無し形無かたなし in ruins; brought to noughtだからね。どういうものかしらん。妹妹いもうと younger sisterはあんなに器用器用きよう dextrous; cleverだのに。このあいだはとうとう降参して降参こうさんして call it quits; throw in the towel、もう歌歌うた songs; singingはやめる、その代りその代かわり instead何か何なにか something楽器楽器がっき (musical) instrumentを習おう習ならおう learnと言いだした言いいだした suggested; indicatedところが、馬鹿囃子馬鹿ばか囃子ばやし festival music; parade musicをお習いなさらないかと勧めた勧すすめた recommended者者もの person; individualがあってね。大笑い大笑おおわらい hearty laughさ」

「そりゃ本当本当ほんとう truthかい」

「本当とも。現に現げんに actually; in fact里見がぼくに、君君きみ youがやるならやってもいいと言ったくらいだもの。あれで馬鹿囃子には八通り八通やとおり eight types; eight styles囃し方囃はやし方かた way of playingがあるんだそうだ」

「君、やっちゃどうだ。あれなら普通の普通ふつうの ordinary人間人間にんげん personにでもできそうだ」

「いや馬鹿囃子はいやだ。それよりか鼓鼓つづみ tsuzumi (hourglass drum whose tension can be adjusted while playing)が打って打うって strike; beat; play (drum)みたくってね。なぜだか鼓の音音おと soundを聞いて聞きいて listen toいると、まったく二十世紀二十世紀にじゅっせき twentieth centuryの気気き feeling; impressionがしなくなるからいい。どうして今今いま now; the presentの世世よ generation; ageにああ間が抜けて間まが抜ぬけて unsophisticated; guilelessいられるだろうと思う思おもう consider; ponderと、それだけでたいへんな薬薬くすり medicineになる。いくらぼくがのん気のん気き easygoing; carefreeでも、鼓の音のような絵絵え drawing; paintingはとてもかけないから」

「かこうともしないんじゃないか」

「かけないんだもの。今の東京東京とうきょう Tōkyōにいる者に悠揚な悠揚ゆうような calm; composed; serene絵ができるものか。もっとも絵にもかぎるまいけれども。――絵といえば、このあいだ大学大学だいがく universityの運動会運動会うんどうかい athletic competition; field dayへ行って行いって go (to)、里見と野々宮野々宮ののみや Nonomiya (name)さんの妹のカリカチュアーカリカチュアー caricatureをかいてやろうと思ったら、とうとう逃げられて逃にげられて be evaded; let get awayしまった。こんだこんだ next time; another time (= 今度こんど)一つ一ひとつ one (thing); once本当の肖像画肖像画しょうぞうが portraitをかいて展覧会展覧会てんらんかい show; exhibitionにでも出そう出だそう put out; displayかと思って」

「だれの」

「里見里見さとみ Satomi (Mineko's family name)の妹妹いもうと younger sisterの。どうも普通の普通ふつうの ordinary; typical日本日本にほん Japanの女女おんな womanの顔顔かお faceは歌麿歌麿うたまろ Kitagawa Utamaro (woodblock print artist in ukiyo-e genre; 1753-1806)式式しき styleや何か何なにか something; some such thingばかりで、西洋西洋せいよう West; Occidentの画布画布カンバス (painting) canvasにはうつりが悪くって悪わるくって no good; unsatisfactoryいけないが、あの女や野々宮野々宮ののみや Nonomiya (name)さんはいい。両方ともに両方りょうほうともに both (of them)絵絵え paintingになる。あの女が団扇団扇うちわ (round) fanをかざして、木立木立こだち grove of trees; stand of treesをうしろに、明るい明あかるい light; bright方方ほう directionを向いて向むいて turn toward; faceいるところを等身等身ライフサイズ life sizeに写して写うつして depict; reproduceみようかしらと思って思おもって think (to do)いる。西洋の扇扇おうぎ folding fanは厭味厭味いやみ in bad taste; garishでいけないが、日本の団扇は新しくって新あたらしくって fresh; novelおもしろいだろう。とにかくはやくしないとだめだ。いまに嫁嫁よめ brideにでもいかれようものなら、そうこっちの自由自由じゆ liberty; as one wishesにいかなくなるかもしれないから」

三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)は多大な多大ただいな a great deal of興味興味きょうみ interestをもって原口原口はらぐち Haraguchi (name)の話話はなし talkを聞いて聞きいて listen toいた。ことに美禰子美禰子みねこ Mineko (name)が団扇をかざしている構図構図こうず compositionは非常な非常ひじょうな unusual; extraordinary感動感動かんどう emotion; passionを三四郎に与えた与あたえた aroused; evoked。不思議の不思議ふしぎの mysterious; mystical因縁因縁いんえん bond; connectionが二人二人ふたり two (people)の間間あいだ betweenに存在して存在そんざいして existいるのではないかと思うほどであった。すると広田先生広田ひろた先生せんせい Professor Hirotaが、「そんな図図ず image; view; sceneはそうおもしろいこともないじゃないか」と無遠慮な無遠慮むえんりょな straight; blunt事事こと matter; thingを言いだした言いいだした voiced。

「でも当人当人とうにん the person in questionの希望希望きぼう wish; preferenceなんだもの。団扇をかざしているところは、どうでしょうと言うから、すこぶる妙妙みょう superb; excellentでしょうと言って承知した承知しょうちした agreedのさ。なに、悪い図どり図ずどり plan; layoutではないよ。かきようにもよるが」

「あんまり美しく美うつくしく attractivelyかくと、結婚結婚けっこん marriageの申込み申込もうしこみ overture; proposalが多く多おおく many; numerousなって困る困こまる be in trouble; be in a bindぜ」

「ハハハじゃ中中ちゅう medium; averageぐらいにかいておこう。結婚といえば、あの女も、もう嫁にゆく時期時期じき time; seasonだね。どうだろう、どこかいい口口くち opening; prospectはないだろうか。里見にも頼まれて頼たのまれて be requestedいるんだが」

「君君きみ youもらっちゃどうだ」

「ぼくか。ぼくでよければもらうが、どうもあの女には信用信用しんよう reputation; credibilityがなくってね」

「なぜ」

「原口原口はらぐち Haraguchiさんは洋行する洋行ようこうする overseas travel; travel abroad時時とき time; occasionにはたいへんな気込み気込きごみ enthusiasm; zealで、わざわざ鰹節鰹節かつぶし dried bonito (usually 鰹節かつおぶし)を買い込んで買かい込こんで buy up; stock up on、これでパリーの下宿下宿げしゅく lodgingsに籠城する籠城ろうじょうする hole up; confine oneselfなんて大いばり大おおいばり bluster; braggingだったが、パリーへ着く着つく arriveやいなや、たちまち豹変した豹変ひょうへんした changed one's spots; changed one's tuneそうですねって笑う笑わらう tease; banterんだから始末がわるい始末しまつがわるい hard to handle; hard to deal with。おおかた兄兄あにき older brotherからでも聞いた聞きいた heardんだろう」

「あの女女おんな young ladyは自分自分じぶん oneselfの行きたい行いきたい want to go所所ところ placeでなくっちゃ行きっこない。勧めたって勧すすめたって recommend; proposeだめだ。好きな好すきな favored; loved人人ひと personがあるまで独身独身どくしん single; unmarriedで置く置おく leave beがいい」

「まったく西洋流西洋流せいようりゅう Western style; like in the Occidentだね。もっともこれからの女はみんなそうなるんだから、それもよかろう」

それから二人二人ふたり two (people)の間間あいだ betweenに長い長ながい lengthy絵画絵画かいが painting談談だん discussionがあった。三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)は広田先生広田ひろた先生せんせい Professor Hirotaの西洋西洋せいよう the West; the Occidentの画工画工えかき painter; artistの名名な namesをたくさん知って知しって know of; be familiar withいるのに驚いた驚おどろいた was surprised。帰る帰かえる return; head homeとき勝手口勝手口かってぐち kitchen door; service entranceで下駄下駄げた (wooden) clogsを捜して捜さがして look forいると、先生が梯子段梯子段はしごだん staircaseの下下した bottomへ来て来きて come (to)「おい佐々木佐々木ささき Sasaki (Yojirō's family name)ちょっと降りて来い降おりて来こい come down」と言って言いって summon; callいた。

戸外戸外そと outsideは寒い寒さむい cold。空空そら sky; heavensは高く高たかく to the heights晴れて晴はれて be clear、どこから露露つゆ dewが降る降ふる fall; descend (precipitation)かと思う思おもう wonderくらいである。手手て handsが着物着物きもの kimonoにさわると、さわった所所ところ place; areaだけがひやりとする。人通り人通ひとどおり pedestrian trafficの少ない少すくない few; light (traffic)小路小路こうじ lanes; alleywaysを二、三度二に、三度さんど several times折れたり折おれたり turn曲がったり曲まがったり round (a curve or corner)してゆくうちに、突然突然とつぜん suddenly辻占屋辻占屋つじうらや sidewalk fortune-tellerに会った会あった met; encountered。大きな大おおきな large丸い丸まるい round提灯提灯ちょうちん (paper-covered) lanternをつけて、腰腰こし waistから下をまっ赤まっ赤か vivid redにしている。三四郎は辻占辻占つじうら fortuneが買ってみたくなった。しかしあえて買わなかった。杉垣杉垣すぎがき cedar hedgeに羽織羽織はおり haori (Japanese formal coat)の肩肩かた shoulderが触れる触ふれる touch; brush againstほどに、赤い提灯をよけて通した通とおした let pass by。しばらくして、暗い暗くらい dark; dimly-lit所をはすにはすに diagonally; at an angle抜ける抜ぬける cut throughと、追分追分おいわけ Oiwake (place name)の通り通とおり avenue; broad streetへ出た出でた emerged (onto)。角角かど cornerに蕎麦屋蕎麦屋そばや soba shopがある。三四郎は今度今度こんど this timeは思い切って思おもい切きって resolutely; decisively暖簾暖簾のれん shop curtainをくぐったくぐった ducked through。少し少すこし a little; a bit酒酒さけ sakéを飲む飲のむ drinkためである。

高等学校高等学校こうとうがっこう high school (equivalent to modern-day college)の生徒生徒せいと studentsが三人三人さんにん three peopleいる。近ごろ近ちかごろ recently学校学校がっこう schoolの先生先生せんせい professorsが昼昼ひる noon; lunchの弁当弁当べんとう bento; box lunchに蕎麦蕎麦そば soba (buckwheat noodles)を食う食くう eat者者もの personsが多く多おおく many; numerousなったと話して話はなして talk (of); discussいる。蕎麦屋蕎麦屋そばや soba shopの担夫担夫かつぎ carrier; delivery manが午砲午砲どん midday gun; noon gunが鳴る鳴なる ring out; soundと、蒸籠蒸籠せいろ wicker tray (for serving soba)や種もの種たねもの soba dish; soba with toppingsを山山やま mountainのように肩肩かた shoulderへ載せて載のせて place on; load onto、急いで急いそいで hurriedly; with haste校門校門こうもん school gateをはいってくる。ここの蕎麦屋はあれでだいぶもうかるだろうと話している。なんとかいう先生は夏夏なつ summerでも釜揚饂飩釜揚かまあげ饂飩うどん pot-boiled udon (noodles)を食うが、どういうものだろうと言って言いって comment; remarkいる。おおかた胃胃い stomachが悪い悪わるい in poor condition; unwellんだろうと言っている。そのほかいろいろの事事こと things; mattersを言っている。教師教師きょうし instructorの名名な namesはたいてい呼び棄てにする呼よび棄すてにする dispense with first name or title。なかに一人一人ひとり one (person)広田広田ひろた Hirota (name)さんと言った者がある。それからなぜ広田さんは独身独身どくしん single; unmarriedでいるかという議論議論ぎろん discussionを始めた始はじめた started; began。広田さんの所所ところ place; homeへ行く行ゆく go (to); visitと女女おんな womanの裸体画裸体画らたいが nude paintingがかけてあるから、女がきらいなんじゃなかろうという説説せつ view; opinionである。もっともその裸体画は西洋人西洋人せいようじん Westernerだからあてにならない。日本日本にほん Japanの女はきらいかもしれないという説である。いや失恋失恋しつれん unrequited loveの結果結果けっか result; consequence (of)に違いないに違ちがいない no doubt ...という説も出た出でた emerged; came forth。失恋してあんな変人変人へんじん oddball; eccentricになったのかと質問した質問しつもんした questioned者もあった。しかし若い若わかい young美人美人びじん beautiful woman; belleが出入する出入しゅつにゅうする frequent; visit; come and goという噂噂うわさ rumor; talkがあるが本当本当ほんとう truthかと聞きただした聞ききただした asked (in order to ascertain)者もあった。

だんだん聞いているうちに、要するに要ようするに in short; in sum広田先生広田ひろた先生せんせい Professor Hirotaは偉い偉えらい distinguished; remarkable人人ひと person; manだということになった。なぜ偉いか三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)にもよくわからないが、とにかくこの三人は三人ながら与次郎与次郎よじろう Yojirō (name)の書いた書かいた wrote; composed「偉大なる偉大いだいなる great; mighty暗闇暗闇くらやみ darkness; void」を読んで読よんで readいる。現に現げんに actually; in factあれを読んでから、急に急きゅうに suddenly広田さんが好き好すき favorably-regardedになったと言っている。時々時々ときどき occasionallyは「偉大なる暗闇」のなかにある警句警句けいく witticismなどを引用して引用いんようして quote; refer toくる。そうしてさかんに与次郎の文章文章ぶんしょう composition; writing (style)をほめている。零余子零余子れいよし Reiyoshi (propagule; one of Yojirō's pen names)とはだれだろうと不思議がって不思議ふしぎがって be curious; wonder (about)いる。なにしろよほどよく広田さんを知って知しって know; be familiar withいる男男おとこ fellowに相違ないに相違そういない without doubt; for certainということには三人とも同意した同意どういした agreed。

三四郎はそばにいて、なるほどと感心した感心かんしんした was impressed。与次郎が「偉大なる暗闇」を書くはずである。文芸時評文芸時評ぶんげいじひょう Literary Reviewの売れ高売うれ高だか sales (figures)の少ない少すくない scant; sparseのは当人当人とうにん the person in questionの自白した自白じはくした confessed; acknowledgedとおりであるのに、麗々しく麗々れいれいしく conspicuously彼の彼かれの hisいわゆる大論文大論文だいろんぶん master work; treatiseを掲げて掲かかげて publish; tout得意がる得意とくいがる swell with prideのは、虚栄心虚栄心きょえいしん vanityの満足満足まんぞく satisfaction以外に以外いがいに outside of; more thanなんのためになるだろうと疑って疑うたがって doubt; questionいたが、これでみると活版活版かっぱん print; printed wordの勢力勢力せいりょく potency; influenceはやはりたいしたものである。与次郎の主張する主張しゅちょうする claim; assertとおり、一言一言いちごん a single wordでも半句半句はんく a simple phraseでも言わないほうが損損そん loss; missed opportunityになる。人の評判評判ひょうばん reputation; standingはこんなところからあがり、またこんなところから落ちる落おちる fall; dropと思う思おもう think (of); considerと、筆を執る筆ふでを執とる write (lit: take up the brush)ものの責任責任せきにん responsibilityが恐ろしく恐おそろしく frightening; amazingなって、三四郎は蕎麦屋を出た。

下宿下宿げしゅく lodgingsへ帰る帰かえる return (to)と、酒酒さけ sakéはもうさめてしまった。なんだかつまらなくっていけない。机机つくえ deskの前前まえ front ofにすわって、ぼんやりしていると、下女下女げじょ maidservantが下下した below; downstairsから湯沸湯沸ゆわかし kettleに熱い熱あつい hot湯湯ゆ (hot) waterを入れて入いれて put into持ってきた持もってきた broughtついでに、封書封書ふうしょ (sealed) letterを一通一通いっつう one (letter)置いて置おいて leaveいった。また母母はは motherの手紙手紙てがみ letter; correspondenceである。三四郎三四郎さんしろう Sanshirō (name)はすぐ封を切った封ふうを切きった broke the seal。きょうは母の手跡手跡しゅせき handwritingを見る見みる see; look atのがはなはだうれしい。

手紙はかなり長い長ながい lengthyものであったが、べつだんの事事こと contentも書いて書かいて writeない。ことに三輪田三輪田みわた Miwata (family name)のお光お光みつ Omitsu (name)さんについては一口一口ひとくち one wordも述べて述のべて mentionないので大いに大おおいに greatlyありがたかった。けれどもなかに妙な妙みょうな odd; strange助言助言じょげん advice; suggestionがある。

お前お前まえ youは子供子供こども childの時時とき timeから度胸度胸どきょう courage; nervesがなくっていけない。度胸の悪い悪わるい poor; inferiorのはたいへんな損損そん disadvantageで、試験試験しけん exam; testの時なぞにはどのくらい困る困こまる face difficultyかしれない。興津興津おきつ Okitsu (family name)の高高たか Taka (name)さんは、あんなに学問学問がくもん scholarship; learningができて、中学校中学校ちゅうがっこう middle schoolの先生先生せんせい teacherをしているが、検定検定けんてい qualification; certification試験を受ける受うける take (a test)たびに、からだがふるえて、うまく答案答案とうあん examination paperができないんで、気の毒気きの毒どく unfortunate; pitiableなことにいまだに月給月給げっきゅう (monthly) salaryが上がらずに上あがらずに without an increaseいる。友だち友ともだち friend; acquaintanceの医学士医学士いがくし doctor of medicineとかに頼んで頼たのんで requestふるえのとまる丸薬丸薬がんやく pillをこしらえてもらって、試験前に飲んで飲のんで swallow; take (medicine)出た出でた appeared (at); took part inがやっぱりふるえたそうである。お前のはぶるぶるふるえるほどでもないようだから、平生平生へいぜい usual; ordinaryから持薬持薬じやく regular medication; daily medicationに度胸のすわる薬薬くすり medicineを東京東京とうきょう Tōkyōの医者医者いしゃ doctorにこしらえてもらって飲んでみろ。直らない直なおらない not get better; not improveこともなかろうというのである。

三四郎はばかばかしいと思った思おもった thought。けれどもばかばかしいうちに大いなる感謝感謝かんしゃ (reason for) gratitudeを見出した見出みいだした discovered。母は本当に本当ほんとうに truly親切な親切しんせつな kind; thoughtfulものであると、つくづくつくづく completely; thoroughly感心した感心かんしんした was impressed。その晩晩ばん evening; night一時一時いちじ one o'clockごろまでかかって長い返事返事へんじ replyを母にやった。そのなかには東京はあまりおもしろい所所ところ placeではないという一句一句いっく (one) phrase; lineがあった。