Kokoro - Sensei's Testament - 19-27

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十九十九じゅうく (part) 19

「私私わたくし I; meはその友達友達ともだち friendの名名な nameをここにKと呼んで呼よんで refer to (as)おきます。私はこのKと小供の時小供こどもの時とき childhood; youth (usually 子供こども)からの仲好仲好なかよし close friendでした。小供の時からといえば断らないでも断ことわらないでも even leaving it unsaid解っている解わかっている understand; be awareでしょう、二人二人ふたり two (people)には同郷同郷どうきょう same (home) townの縁故縁故えんこ relation; connectionがあったのです。Kは真宗真宗しんしゅう Shin Buddhismの坊さん坊ぼうさん Buddhist priestの子子こ childでした。もっとも長男長男ちょうなん eldest sonではありません、次男次男じなん second sonでした。それである医者医者いしゃ doctor; physicianの所所ところ place; residenceへ養子養子ようし adopted childにやられたのです。私の生れた地方生うまれた地方ちほう native place; home regionは大変大変たいへん very much; a great deal本願寺派本願寺ほんがんじ派は Honganji sect (of Shin Buddhism)の勢力勢力せいりょく force; influenceの強い強つよい strong; potent; robust所でしたから、真宗の坊さんは他のもの他ほかのもの others; other peopleに比べるとに比くらべると in comparison to、物質的に物質的ぶっしつてきに in material terms割割わり profit; gainが好かった好よかった was good; was lucrativeようです。一例一例いちれい one exampleを挙げる挙あげる bring up; mentionと、もし坊さんに女の子女おんなの子こ female child; daughterがあって、その女の子が年頃年頃としごろ marriageable ageになったとすると、檀家のもの檀家だんかのもの parishionersが相談して相談そうだんして discuss (a matter)、どこか適当な適当てきとうな suitable; appropriate所へ嫁嫁よめ wife; brideにやってくれます。無論無論むろん of course費用費用ひよう cost; expensesは坊さんの懐懐ふところ pocket; purseから出る出でる come out (of)のではありません。そんな訳訳わけ reasonで真宗寺真宗寺しんしゅうでら Shin Buddhism templeは大抵大抵たいてい for the most part有福有福ゆうふく affluence; prosperity (usually 裕福ゆうふく)でした。

Kの生れた家家いえ house; householdも相応に相応そうおうに suitably; adequately暮らして暮くらして live; get byいたのです。しかし次男を東京東京とうきょう Tōkyōへ修業修業しゅぎょう studies; learningに出す出だす send out; send forthほどの余力余力よりょく (financial) leeway; licenseがあったかどうか知りません知しりません don't know。また修業に出られる便宜便宜べんぎ advantage; expedienceがあるので、養子の相談が纏まった纏まとまった was settled; was arrangedものかどうか、そこも私には分りません。とにかくKは医者の家家うち house; homeへ養子に行った行いった went (to)のです。それは私たちがまだ中学中学ちゅうがく middle schoolにいる時の事事こと event; happeningでした。私は教場教場きょうじょう classroomで先生先生せんせい teacherが名簿を呼ぶ名簿めいぼを呼よぶ call roll時に、Kの姓姓せい family name; surnameが急に急きゅうに suddenly変っていた変かわっていた was changed; was differentので驚いた驚おどろいた was surprisedのを今今いま now; the presentでも記憶して記憶きおくして rememberいます。

Kの養子先先さき destinationもかなりな財産家財産家ざいさんか man of wealthでした。Kはそこから学資学資がくし educational fundsを貰って貰もらって receive東京へ出て来た出でて来きた came up (to)のです。出て来たのは私といっしょでなかったけれども、東京へ着いて着ついて arriveからは、すぐ同じ同おなじ the same下宿下宿げしゅく lodgingsに入りました入はいりました entered。その時分時分じぶん time; periodは一つ室一ひとつ室へや single roomによく二人二人ふたり two peopleも三人三人さんにん three peopleも机机つくえ deskを並べて並ならべて line up; place side by side寝起きした寝起ねおきした livedものです。Kと私も二人で同じ間間ま roomにいました。山山やま mountainsで生捕られた生捕いけどられた be captured alive動物動物どうぶつ animalsが、檻檻おり cageの中中なか insideで抱き合いながら抱だき合あいながら embracing each other、外外そと outside; surroundingsを睨める睨にらめる watch; eye (with caution)ようなものでしたろう。二人は東京と東京の人人ひと people; folkを畏れました畏おそれました feared; were wary of。それでいて六畳六畳ろくじょう 6 mats (about 10 sq meters; about 104 sq ft)の間の中では、天下天下てんか realm; worldを睥睨する睥睨へいげいする lord over; be masters ofような事をいっていたのです。

しかし我々我々われわれ we; usは真面目真面目まじめ earnest; sincereでした。我々は実際実際じっさい really; in fact偉くなる偉えらくなる achieve greatnessつもりでいたのです。ことにKは強かったのです。寺に生れた彼彼かれ he; himは、常に常つねに always; constantly精進精進しょうじん diligence; devotionという言葉言葉ことば wordを使いました使つかいました used; applied。そうして彼の行為行為こうい deeds; conduct動作動作どうさ actionsは悉く悉ことごとく entirely; in all respectsこの精進の一語一語いちご one word; single wordで形容される形容けいようされる be described byように、私には見えた見みえた appearedのです。私は心のうちで心こころのうちで inwardly; to oneself常にKを畏敬して畏敬いけいして regard with great respect; revereいました。

Kは中学中学ちゅうがく middle schoolにいた頃頃ころ timeから、宗教宗教しゅうきょう religionとか哲学哲学てつがく philosophyとかいうむずかしい問題問題もんだい topic; subjectで、私私わたくし I; meを困らせました困こまらせました troubled; put on the spot (with questions)。これは彼彼かれ he; himの父父ちち fatherの感化感化かんか influenceなのか、または自分自分じぶん oneselfの生れた生うまれた was born into家家いえ house; household、すなわち寺寺てら templeという一種一種いっしゅ one type; certain type特別な特別とくべつな special; particular建物建物たてもの building; structureに属する属ぞくする belong to; be associated with空気空気くうき air; atmosphereの影響影響えいきょう influence; effectなのか、解りません解わかりません don't know; can't say。ともかくも彼は普通の普通ふつうの ordinary; typical坊さん坊ぼうさん priestよりは遥かに遥はるかに by far坊さんらしい性格性格せいかく character; disposition; natureをもっていたように見受けられます見受みうけられます be seen; come across (as)。元来元来がんらい originally; from the startKの養家養家ようか adoptive familyでは彼を医者医者いしゃ doctor; physicianにするつもりで東京東京とうきょう Tōkyōへ出した出だした sent (to)のです。しかるにしかるに however頑固な頑固がんこな stubborn; obstinate彼は医者にはならない決心決心けっしん determination; resolveをもって、東京へ出て来た出でて来きた came up (to)のです。私は彼に向って向むかって turn toward、それでは養父母養父母ようふぼ adoptive parentsを欺く欺あざむく deceiveと同じ同おなじ the same事事こと matter; thingではないかと詰りました詰なじりました rebuked; scolded。大胆な大胆だいたんな bold; audacious彼はそうだと答える答こたえる answerのです。道道みち way; pathのためなら、そのくらいの事をしても構わない構かまわない is not a problem; is acceptableというのです。その時時とき time; occasion彼の用いた用もちいた used; applied道という言葉言葉ことば word; term; expressionは、おそらく彼にもよく解っていなかったでしょう。私は無論無論むろん of course解ったとはいえません。しかし年の若い年としの若わかい young (in years)私たちには、この漠然とした漠然ばくぜんとした vague; ambiguous言葉が尊とく尊たっとく noble; exalted; sacred響いた響ひびいた echoed; rangのです。よし解らないにしても気高い気高けだかい high-minded心持心持こころもち feeling; moodに支配されて支配しはいされて be ruled by; be taken with、そちらの方方ほう directionへ動いて行こう動うごいて行ゆこう move; progress (toward)とする意気組意気組いきぐみ fervor; zeal; enthusiasmに卑しい卑いやしい mean; ignobleところの見える見みえる be visible; be apparentはずはありません。私はKの説説せつ opinion; viewpointに賛成しました賛成さんせいしました was in agreement (with)。私の同意同意どうい agreement; approvalがKにとってどのくらい有力有力ゆうりょく influential; persuasiveであったか、それは私も知りません知しりません don't know。一図一図いちず wholehearted; earnestな彼は、たとい私がいくら反対しよう反対はんたいしよう be opposed; disagreeとも、やはり自分の思い通り思おもい通どおり as one thinks; as one sees fitを貫いた貫つらぬいた carried out; followed throughに違いなかろうに違ちがいなかろう no doubt ...とは察せられます察せっせられます one could presume that ...。しかし万一の場合万一まんいちの場合ばあい on the off chance (that all goes wrong)、賛成賛成さんせい agreement; approvalの声援声援せいえん encouragement; supportを与えた与あたえた gave; conferred私に、多少の多少たしょうの some degree of責任責任せきにん responsibilityができてくるぐらいの事は、子供子供こども childながら私はよく承知していた承知しょうちしていた accepted; acknowledgedつもりです。よしその時にそれだけの覚悟覚悟かくご resolve; preparationがないにしても、成人した成人せいじんした matured; come of age眼眼め eyes; viewpoint; perspectiveで、過去過去かこ the pastを振り返る振ふり返かえる look back on必要必要ひつよう necessity; needが起った起おこった came about; occurred場合場合ばあい situation; circumstanceには、私に割り当てられた割わり当あてられた be assigned; have doled out toだけの責任は、私の方で帯びる帯おびる carry; take onのが至当至当しとう fair; properになるくらいな語気語気ごき tone (of voice)で私は賛成したのです。

二十二十にじゅう (part) 20

「Kと私私わたくし I; meは同じ同おなじ the same科科か (academic) departmentへ入学しました入学にゅうがくしました enrolled (in); matriculated (at)。Kは澄ました澄すました indifferent; calm and collected顔顔かお face; (facial) expressionをして、養家養家ようか adoptive familyから送ってくれる送おくってくれる be sent on one's behalf金金かね moneyで、自分自分じぶん oneselfの好きな好すきな preferred; to one's liking道道みち way; pathを歩き出した歩あるき出だした began to walk; set out onのです。知れはしない知しれはしない won't know; have no ideaという安心安心あんしん assuranceと、知れたって構う構かまう care; mindものかという度胸度胸どきょう nerve; pluckとが、二つながら二ふたつながら bothKの心心こころ heart; mindにあったものと見る見みる view; regard (as)よりほか仕方がありませんよりほか仕方しかたがありません no alternative other than to ...。Kは私よりも平気平気へいき cool; calm; unconcernedでした。

最初の最初さいしょの initial; first夏休み夏休なつやすみ summer vacationにKは国国くに country; one's native placeへ帰りませんでした帰かえりませんでした did not return (to)。駒込駒込こまごめ Komagome (place name)のある寺寺てら templeの一間一間ひとま one room; single roomを借りて借かりて borrow; rent勉強する勉強べんきょうする studyのだといっていました。私が帰って来た帰かえって来きた returned; came backのは九月九月くがつ September上旬上旬じょうじゅん first part of the month (first 10 days of the month)でしたが、彼彼かれ he; himははたしてはたして sure enough大観音大観音おおがんのん Great Kannonの傍傍そば vicinity; proximityの汚い汚きたない dirty; untidy寺の中中なか insideに閉じ籠っていました閉とじ籠こもっていました was holed up (in)。彼の座敷座敷ざしき roomは本堂本堂ほんどう main hallのすぐ傍の狭い狭せまい narrow; cramped; confined室室へや roomでしたが、彼はそこで自分の思う思おもう think; imagine通り通とおり just as; exactly asに勉強ができたのを喜んでいる喜よろこんでいる take pleasure in; enjoyらしく見えました。私はその時時とき time彼の生活生活せいかつ life; lifestyleの段々段々だんだん gradually; bit by bit坊さんらしく坊ぼうさんらしく priest-likeなって行くなって行ゆく progress toward; becomeのを認めた認みとめた recognized; took notice ofように思います思おもいます think; believe。彼は手頸手頸てくび wristに珠数珠数じゅず rosary; string of prayer beads (Buddhism)を懸けて懸かけて wearいました。私がそれは何何なん whatのためだと尋ねたら尋たずねたら ask; inquire、彼は親指親指おやゆび thumbで一つ一ひとつ one (of something)二つ二ふたつ two (of something)と勘定する勘定かんじょうする count真似真似まね action; behaviorをして見せました。彼はこうして日に日ひに each day何遍も何遍なんべんも numerous times珠数の輪輪わ circle; loopを勘定するらしかったのです。ただしその意味意味いみ meaning; significanceは私には解りません解わかりません was not understood; was lost on (someone)。円い円まるい round; circular輪になっているものを一粒一粒ひとつぶ one beadずつ数えてゆけば数かぞえてゆけば proceed in counting、どこまで数えていっても終局終局しゅうきょく ending point; conclusionはありません。Kはどんな所所ところ placeでどんな心持心持こころもち feeling; sensationがして、爪繰る爪繰つまぐる work (something) with one's fingertips手手て handを留めた留とめた stopped; brought to a restでしょう。詰らない詰つまらない unimportant; trifling事事こと matterですが、私はよくそれを思う思おもう think; wonder (about)のです。

私はまた彼の室に聖書聖書せいしょ Bibleを見ました。私はそれまでにお経お経きょう sutra; Buddhist scripturesの名名な namesを度々度々たびたび often; frequently彼の口口くち mouthから聞いた聞きいた heard覚え覚おぼえ memoryがありますが、基督教基督キリスト教きょう Christianityについては、問われた問とわれた was asked事も答えられた答こたえられた was answered例例ためし precedent; exampleもなかったのですから、ちょっと驚きました驚おどろきました was surprised。私はその理由理由わけ reason; motiveを訊ねずに訊たずねずに without asking; without inquiringはいられませんでした。Kは理由はないといいました。これほど人人ひと people; menの有難がる有難ありがたがる find favor in; have an appreciation for書物書物しょもつ bookなら読んで読よんで readみるのが当り前当あたり前まえ natural; reasonableだろうともいいました。その上その上うえ on top of that; furthermore彼は機会機会きかい opportunity; chanceがあったら、『コーランコーラン Koran』も読んでみるつもりだといいました。彼はモハメッドモハメッド Muhammadと剣剣けん swordという言葉言葉ことば phraseに大いなる大おおいなる great興味興味きょうみ interest; curiosityをもっているようでした。

二年目二年目にねんめ second yearの夏夏なつ summerに彼彼かれ he; himは国国くに country; one's native placeから催促催促さいそく demand; pressing requestを受けて受うけて receiveようやく帰りました帰かえりました returned; went home。帰っても専門専門せんもん specialty; area of study; majorの事の事こと about ...; concerning ...は何にも何なんにも (no)thingいわなかったものとみえます。家家うち house; homeでもまたそこに気が付かなかった気きが付つかなかった didn't realize; didn't noticeのです。あなたは学校教育学校がっこう教育きょういく formal educationを受けた人人ひと person; manだから、こういう消息消息しょうそく relating of eventsをよく解して解かいして understand; appreciateいるでしょうが、世間世間せけん society; the worldは学生学生がくせい studentの生活生活せいかつ life; lifestyleだの、学校の規則規則きそく rules; conventionsだのに関してに関かんして concerning; in connection to、驚く驚おどろく be surprisedべく無知な無知むちな ignorant; uninformedものです。我々我々われわれ we; usに何でもない事が一向一向いっこう (not) in the least外部外部がいぶ outside; external (world)へは通じていません通つうじていません is not known。我々はまた比較的比較的ひかくてき comparatively内部内部ないぶ inside; internalの空気空気くうき airばかり吸って吸すって breathe; take inいるので、校内校内こうない within the schoolの事は細大ともに細大さいだいともに both great and small; all世の中世よの中なか society; the worldに知れ渡っている知しれ渡わたっている be universally known; be well understoodはずだと思い過ぎる思おもい過すぎる make too much of; go too far (in one's thinking)癖癖くせ tendencyがあります。Kはその点点てん pointにかけて、私私わたくし I; meより世間を知っていた知しっていた was aware of; was attuned toのでしょう、澄ました澄すました indifferent; nonchalant顔顔かお face; (facial) expressionでまた戻って来ました戻もどって来きました came back; returned。国を立つ立たつ leave; depart (from)時時とき time; occasionは私もいっしょでしたから、汽車汽車きしゃ (steam) trainへ乗る乗のる board (a train)や否やや否いなや as soon as ...すぐどうだったとKに問いました問といました asked; inquired。Kはどうでもなかったと答えた答こたえた answered; repliedのです。

三度目三度目さんどめ third timeの夏はちょうど私が永久に永久えいきゅうに forever; for all time父母父母ふぼ father and motherの墳墓墳墓ふんぼ gravesの地地ち ground; landを去ろう去さろう leave; go fromと決心した決心けっしんした decided; resolved年年とし yearです。私はその時Kに帰国帰国きこく return homeを勧めました勧すすめました recommended; advised; encouragedが、Kは応じませんでした応おうじませんでした didn't listen; did not comply。そう毎年毎年まいとし every year家へ帰って何何なに whatをするのだというのです。彼はまた踏み留まって踏ふみ留とどまって stay back; remain behind勉強する勉強べんきょうする studyつもりらしかったのです。私は仕方なしに仕方しかたなしに having no other recourse一人で一人ひとりで alone; by oneself東京東京とうきょう Tōkyōを立つ事にしました。私の郷里郷里きょうり native place; home townで暮らした暮くらした lived; passed one's timeその二カ月間二にカ月間げつかん period of two months; two months' timeが、私の運命運命うんめい fate; destinyにとって、いかに波瀾波瀾はらん trouble; ups and downsに富んだ富とんだ was rich (in); abounded (with)ものかは、前前まえ before; priorに書いた書かいた wrote; penned通り通とおり just as; exactly asですから繰り返しません繰くり返かえしません won't repeat。私は不平不平ふへい discontentと幽欝幽欝ゆううつ melancholy; dejectionと孤独孤独こどく isolation; alienationの淋しさ淋さびしさ lonelinessとを一つ一ひとつ one thing胸胸むね breast; bosomに抱いて抱いだいて harbor; bear、九月九月くがつ Septemberに入って入いって enter (into)またKに逢いました逢あいました met; came together (with)。すると彼の運命もまた私と同様に同様どうように in the same manner変調変調へんちょう change of tone; transformationを示して示しめして show; displayいました。彼は私の知らないうちに、養家先養家先ようかさき adoptive familyへ手紙手紙てがみ letterを出して出だして send off、こっちから自分の自分じぶんの one's own詐り詐いつわり falsehood; fictionを白状して白状はくじょうして confessしまったのです。彼は最初から最初さいしょから from the startその覚悟覚悟かくご preparedness; resolveでいたのだそうです。今更今更いまさら at this point仕方がないから、お前お前まえ youの好きな好すきな desired; preferredものをやるより外により外ほかに other than; besides途途みち way; pathはあるまいと、向う向むこう the other partyにいわせるつもりもあったのでしょうか。とにかく大学大学だいがく university (graduate school)へ入って入はいって enter (into)までも養父母養父母ようふぼ adoptive parentsを欺き通す欺あざむき通とおす continue to deceive; mislead throughout気気き intentionはなかったらしいのです。また欺こうとしても、そう長く長ながく for a long time続く続つづく continueものではないと見抜いた見抜みぬいた saw; gaged (as)のかも知れませんかも知しれません it may be that ...。

二十一二十一にじゅういち (part) 21

「Kの手紙手紙てがみ letterを見た見みた saw; read養父養父ようふ adoptive fatherは大変大変たいへん very much; a great deal怒りました怒おこりました became angry; was enraged; grew furious。親親おや parentsを騙す騙だます trick; deceiveような不埒な不埒ふらちな insolent; impudentものに学資学資がくし educational fundsを送る送おくる send事はできない事ことはできない be unable to ...; can't ...という厳しい厳きびしい stern; severe返事返事へんじ response; replyをすぐ寄こした寄よこした sent; deliveredのです。Kはそれを私私わたくし I; meに見せました。Kはまたそれと前後してと前後ぜんごして at about the same time実家実家じっか parental home; home one was born intoから受け取った受うけ取とった received書翰書翰しょかん letter; correspondenceも見せました。これにも前前まえ before; priorに劣らない劣おとらない be in no way inferior (to)ほど厳しい詰責詰責きっせき reproach; reprovalの言葉言葉ことば wordsがありました。養家先養家先ようかさき adoptive familyへ対してへ対たいして with respect to済まない済すまない inexcusable; unpardonableという義理義理ぎり sense of duty; feeling of obligationが加わって加くわわって be added toいるからでもありましょうが、こっちでも一切一切いっさい (not) at all; (not) in the least構わない構かまわない not care for; not look afterと書いてありました書かいてありました was written。Kがこの事件事件じけん affair; scandalのために復籍して復籍ふくせきして be reinstated (into a family register)しまうか、それとも他に他たに in some other way妥協妥協だきょう compromise; settlementの道道みち way; pathを講じて講こうじて work out; devise、依然依然いぜん still; as yet養家に留まる留とどまる stay; remainか、そこはこれから起る起おこる raise up; engage in問題問題もんだい problem; questionとして、差し当り差さし当あたり for the time being; at presentどうかしなければならないのは、月々月々つきづき month by month; monthlyに必要な必要ひつような necessary; needed学資でした。

私はその点点てん point; aspectについてKに何か何なにか something; some sort of考え考かんがえ idea; thoughtがあるのかと尋ねました尋たずねました asked; inquired。Kは夜学校夜学校やがっこう night schoolの教師教師きょうし teacher; instructorでもするつもりだと答えました答こたえました answered; replied。その時分時分じぶん time; periodは今今いま now; the presentに比べる比くらべる compareと、存外存外ぞんがい contrary to expectations; surprisingly世の中世よの中なか society; the worldが寛ろいでいました寛くつろいでいました was easier; was relaxedから、内職内職ないしょく side job; sidelineの口口くち opening; opportunityはあなたが考えるほど払底払底ふってい scarce; in short supplyでもなかったのです。私はKがそれで充分充分じゅうぶん sufficiently; well enoughやって行けるやって行ゆける can carry on; can get byだろうと考えました。しかし私には私の責任責任せきにん responsibilityがあります。Kが養家の希望希望きぼう wishesに背いて背そむいて go against; disobey、自分自分じぶん oneselfの行きたい行ゆきたい want to follow道を行こうとした時時とき time、賛成した賛成さんせいした agreed; approvedものは私です。私はそうかといって手を拱いで手てを拱こまぬいで stand idly byいる訳にゆきません訳わけにゆきません would not do to ...; could not very well ...。私はその場その場ば that occasionで物質的の物質的ぶっしつてきの material補助補助ほじょ assistance; supportをすぐ申し出しました申もうし出だしました suggested; proposed。するとKは一も二もなく一いちも二にもなく without thinking twiceそれを跳ね付けました跳はね付つけました turned down; refused。彼彼かれ he; himの性格性格せいかく nature; dispositionからいって、自活自活じかつ self-sufficiencyの方方ほう alternative (of two choices)が友達友達ともだち friendの保護保護ほご favor; patronageの下下もと under (the influence of)に立つ立たつ stand; be positioned; find oneselfより遥に遥はるかに by far快よく快こころよく pleasant; agreeable思われた思おもわれた thought of as; took asのでしょう。彼は大学大学だいがく university (graduate school)へはいった以上以上いじょう given that ...、自分一人自分じぶん一人ひとり by oneself; on one's ownぐらいどうかできなければ男男おとこ manでないような事をいいました。私は私の責任を完うする完まっとうする fulfill; carry outために、Kの感情感情かんじょう feelings; sentimentを傷つける傷きずつける damage; injure; harmに忍びませんでしたに忍しのびませんでした felt reluctant to ...; was loathe to ...。それで彼の思う通り通とおり just as; exactly asにさせて、私は手を引きました手てを引ひきました withdrew; backed away。

Kは自分の望む望のぞむ desire; wish forような口をほどなくほどなく shortly; before long探し出しました探さがし出だしました sought out; found。しかし時間時間じかん timeを惜しむ惜おしむ value; hold dear彼にとって、この仕事仕事しごと workがどのくらい辛かった辛つらかった was bitter; was a hardshipかは想像するまでもない想像そうぞうするまでもない goes without saying事です。彼は今まで通り勉強勉強べんきょう studiesの手をちっとも緩めずに緩ゆるめずに without letting up、新しい新あたらしい new荷荷に burdenを背負って背負しょって bear; shoulder猛進した猛進もうしんした rushed on; pushed aheadのです。私は彼の健康健康けんこう health; well-beingを気遣いました気遣きづかいました worried about。しかし剛気な剛気ごうきな stouthearted; valiant彼は笑う笑わらう laughだけで、少しも少すこしも (not) in the least私の注意注意ちゅうい warning; adviceに取り合いませんでした取とり合あいませんでした paid no heed (to)。

同時に同時どうじに at the same time彼彼かれ he; himと養家養家ようか adoptive familyとの関係関係かんけい relationshipは、段々段々だんだん gradually; bit by bitこん絡がって来ましたこん絡がらがって来きました grew tangled; became complicated。時間時間じかん timeに余裕余裕よゆう margin; leewayのなくなった彼は、前前まえ beforeのように私私わたくし I; meと話す話はなす talk機会機会きかい chances; opportunitiesを奪われた奪うばわれた was taken away; was lostので、私はついにその顛末顛末てんまつ circumstance; factsを詳しく詳くわしく in detail聞かずに聞きかずに without hearingしまいましたが、解決解決かいけつ resolution; settlementのますます困難困難こんなん difficultyになってゆく事事こと situationだけは承知していました承知しょうちしていました was aware; knew (of)。人人ひと a (certain) personが仲に入って仲なかに入はいって intercede; intervene; arbitrate調停調停ちょうてい conciliationを試みた試こころみた tried; attempted事も知っていました知しっていました knew。その人は手紙手紙てがみ letterでKに帰国帰国きこく returning homeを促した促うながした suggested; urgedのですが、Kは到底到底とうてい utterly; absolutely; after all; in the end駄目駄目だめ no good; hopelessだといって、応じませんでした応おうじませんでした didn't listen; did not comply。この剛情な剛情ごうじょうな obstinate; stubbornところが、――Kは学年中学年がくねん中じゅう during the school yearで帰れない帰かえれない could not return (home)のだから仕方がない仕方しかたがない can't be helpedといいましたけれども、向う向むこう the other side; the other partyから見れば見みれば look at; view剛情でしょう。そこが事態事態じたい situation; circumstancesをますます険悪険悪けんあく dicey; precariousにしたようにも見えました。彼は養家の感情感情かんじょう feelings; sentimentを害する害がいする damage; harmと共にと共ともに along with; together with、実家実家じっか parental home; home one was born intoの怒り怒いかり anger; displeasureも買う買かう stir; provokeようになりました。私が心配して心配しんぱいして worry; be concerned双方双方そうほう both sides; both partiesを融和する融和ゆうわする appease; placate; pacifyために手紙を書いた書かいた crafted; wrote; drafted時時とき time; occasionは、もう何の何なんの (none) whatsoever効果効果ききめ effect; resultもありませんでした。私の手紙は一言一言ひとこと one word; a single wordの返事返事へんじ response; replyさえ受けずに受うけずに without receiving葬られて葬ほうむられて was buried; was shelvedしまったのです。私も腹が立ちました腹はらが立たちました grew irritated; became annoyed。今今いま now; the presentまでも行掛り上行掛ゆきがかり上じょう given the circumstances; things being what they were、Kに同情して同情どうじょうして sympathize (with)いた私は、それ以後それ以後いご from that point onは理否理否りひ rights and wrongs; relative merits (usually 理非りひ)を度外に置いて度外どがいに置おいて set aside; disregardもKの味方味方みかた ally; supporter; backerをする気気き inclinationになりました。

最後に最後さいごに finally; in the endKはとうとう復籍復籍ふくせき reinstatement (into a family register)に決しました決けっしました decided; settled (on)。養家から出して出だして put forth; provideもらった学資学資がくし educational fundsは、実家で弁償する弁償べんしょうする reimburse事になったのです。その代りその代かわり in return; in exchange実家の方方ほう sideでも構わない構かまわない not care for; not look afterから、これからは勝手にしろ勝手かってにしろ do as you like; take care of yourself; go your own wayというのです。昔昔むかし old days; former timesの言葉言葉ことば word; term; expressionでいえば、まあ勘当勘当かんどう disinheritanceなのでしょう。あるいはそれほど強い強つよい strong; severeものでなかったかも知れませんかも知しれません it may be that ...が、当人当人とうにん the one concerned; he himselfはそう解釈して解釈かいしゃくして interpret; take asいました。Kは母母はは motherのない男男おとこ man; fellowでした。彼の性格性格せいかく character; dispositionの一面一面いちめん one side; one facet (of)は、たしかに継母継母けいぼ stepmotherに育てられた育そだてられた was raised (by)結果結果けっか result; consequence; outcomeとも見る事ができるようです。もし彼の実の実じつの actual; true母が生きて生いきて be livingいたら、あるいは彼と実家との関係に、こうまで隔たり隔へだたり distance; detachmentができずに済んだ済すんだ finished; concluded; endedかも知れないと私は思う思おもう think; believeのです。彼の父父ちち fatherはいうまでもなく僧侶僧侶そうりょ Buddhist priestでした。けれども義理堅い義理ぎり堅がたい possessed of a strong sense of duty点点てん point; aspectにおいて、むしろ武士武士さむらい samurai; warriorに似た似にた resembled; was akin toところがありはしないかと疑われます疑うたがわれます one wondered if ...。

二十二二十二にじゅうに (part) 22

「Kの事件事件じけん incident; affair; troubleが一段落ついた一段落いちだんらくついた reached a lull; settled a bit後後あと afterで、私私わたくし I; meは彼彼かれ he; himの姉姉あね older sisterの夫夫おっと husbandから長い長ながい long; lengthy封書封書ふうしょ (sealed) letterを受け取りました受うけ取とりました received。Kの養子養子ようし adopted childに行った行いった went (to)先先さき destinationは、この人人ひと personの親類親類しんるい relative; relation; kinに当るに当あたる correspond toのですから、彼を周旋した周旋しゅうせんした brokered; mediated時時とき time; occasionにも、彼を復籍させた復籍ふくせきさせた reinstated (into a family register)時にも、この人の意見意見いけん opinion; point of viewが重き重おもき importanceをなしていたのだと、Kは私に話して聞かせました話はなして聞きかせました told; informed。

手紙手紙てがみ letterにはその後Kがどうしているか知らせて知しらせて let know; informくれと書いてありました書かいてありました was written。姉が心配して心配しんぱいして be concerned; be worriedいるから、なるべく早く早はやく soon; without delay返事返事へんじ reply; responseを貰いたい貰もらいたい want to receiveという依頼依頼いらい requestも付け加えてありました付つけ加くわえてありました was added。Kは寺寺てら templeを嗣いだ嗣ついだ took on through succession兄兄あに older brotherよりも、他家他家たけ another family; another houseへ縁づいた縁えんづいた married (into)この姉を好いていました好すいていました was fond of; was close to。彼らはみんな一つ一ひとつ one (thing)腹腹はら belly; wombから生れた生うまれた were born姉弟姉弟きょうだい brothers and sisters; siblingsですけれども、この姉とKとの間にはの間あいだには between ...大分大分だいぶ very much; a great deal年歯年歯とし ageの差差さ differenceがあったのです。それでKの小供小供こども child; youth (usually 子供こども)の時分時分じぶん time; periodには、継母継母ままはは stepmotherよりもこの姉の方方ほう alternative (of two choices)が、かえって本当の本当ほんとうの actual; true母母はは motherらしく見えた見みえた appeared; seemed; came across asのでしょう。

私はKに手紙を見せました。Kは何とも何なんとも (no)thingいいませんでしたけれども、自分の自分じぶんの one's own所所ところ place; residenceへこの姉から同じ同おなじ the sameような意味意味いみ meaning; gistの書状書状しょじょう letter; noteが二、三度二に、三度さんど two or three times来た来きた came; arrivedという事事こと fact; state of affairsを打ち明けました打うち明あけました disclosed; revealed。Kはそのたびに心配するに及ばないに及およばない not worth ...; not to the point of ...と答えてやった答こたえてやった answered; respondedのだそうです。運悪く運悪うんわるく unfortunatelyこの姉は生活生活せいかつ lifestyle; livelihoodに余裕余裕よゆう margin; leewayのない家家いえ house; householdに片付いた片付かたづいた was married off (to)ために、いくらKに同情同情どうじょう sympathy; compassionがあっても、物質的に物質的ぶっしつてきに materially弟弟おとうと younger brotherをどうしてやる訳にも行かなかった訳わけにも行ゆかなかった was unable to ...; was incapable of ...のです。

私はKと同じような返事を彼の義兄義兄ぎけい brother-in-law宛宛あて addressed toで出しました出だしました sent out; dispatched。その中にその中うちに within it、万一の場合には万一まんいちの場合ばあいには if worse comes to worst私がどうでもするから、安心する安心あんしんする rest easyようにという意味を強い強つよい strong; firm言葉言葉ことば wordsで書き現わしました書かき現あらわしました expressed (in writing)。これは固より固もとより from the first; all along私の一存一存いちぞん choosing; initiativeでした。Kの行先行先ゆくさき futureを心配するこの姉に安心を与えよう与あたえよう give; impart (to)という好意好意こうい good will; favorは無論無論むろん of course含まれていました含ふくまれていました was includedが、私を軽蔑した軽蔑けいべつした dispised; disdained; disrespectedとより外に取りようのないより外ほかに取とりようのない could not be taken otherwise than ...彼の実家実家じっか parental home; home one was born intoや養家養家ようか adoptive familyに対するに対たいする with respect to; vis-à-vis意地意地いじ opposition; perversenessもあったのです。

Kの復籍した復籍ふくせきした was reinstated (into a family register)のは一年生一年生いちねんせい first year studentの時時とき timeでした。それから二年生二年生にねんせい second year studentの中頃中頃なかごろ about the middle; around midwayになるまで、約約やく approximately; about一年半一年半いちねんはん a year and a halfの間間あいだ interval of time、彼彼かれ he; himは独力独力どくりょく solitary effortで己れ己おのれ oneselfを支えて支ささえて supportいったのです。ところがこの過度の過度かどの excessive労力労力ろうりょく toil; effortが次第に次第しだいに gradually彼の健康健康けんこう healthと精神精神せいしん mind; spiritの上にの上うえに with regard to; concerning影響して来た影響えいきょうして来きた began to affectように見え出しました見みえ出だしました started to show。それには無論無論むろん of course養家養家ようか adoptive familyを出る出ない出でる出でない leave or not leaveの蒼蠅い蒼蠅うるさい bothersome問題問題もんだい problemも手伝っていた手伝てつだっていた played a role; contributedでしょう。彼は段々段々だんだん gradually; bit by bit感傷的感傷的センチメンタル sentimental; emotionalになって来たのです。時によると、自分自分じぶん oneselfだけが世の中世よの中なか the worldの不幸不幸ふこう misfortune; sorrowを一人で一人ひとりで alone; by oneself背負って背負しょって shoulder; be saddled with立って立たって stand; hold one's groundいるような事事こと thingsをいいます。そうしてそれを打ち消せば打うち消けせば refuteすぐ激する激げきする get worked up; come ungluedのです。それから自分の未来未来みらい futureに横たわる横よこたわる lie in waiting; be latent光明光明こうみょう glimmer; hopeが、次第に彼の眼眼め viewを遠退いて行く遠退とおのいて行ゆく recede away fromようにも思って思おもって think; feel; perceive、いらいらするのです。学問学問がくもん scholarship; academic endeavorをやり始めたやり始はじめた started; commenced時には、誰しも誰だれしも everyone; anyone偉大な偉大いだいな great; grand抱負抱負ほうふ aspiration; ambitionをもって、新しい新あたらしい novel; fresh旅旅たび journeyに上る上のぼる set out (on)のが常常つね usualですが、一年一年いちねん one yearと立ち立たち pass; lapse二年二年にねん two yearsと過ぎ過すぎ go by、もう卒業卒業そつぎょう graduationも間近間近まぢか near; closeになると、急に急きゅうに suddenly自分の足の運び足あしの運はこび pace; stepsの鈍い鈍のろい slow; sluggishのに気が付いて気きが付ついて notice; realize、過半過半かはん mostはそこで失望する失望しつぼうする despair; lose heartのが当り前当あたり前まえ ordinary; commonplaceになっていますから、Kの場合場合ばあい case; situationも同じ同おなじ the sameなのですが、彼の焦慮り方焦慮あせり方かた fluster; frenzy; agitationはまた普通普通ふつう ordinary; usualに比べる比くらべる compareと遥かに遥はるかに by far甚しかった甚はなはだしかった was excessive; was extremeのです。私私わたくし I; meはついに彼の気分気分きぶん feeling; moodを落ち付ける落おち付つける quiet; calmのが専一専一せんいち of utmost importanceだと考えました考かんがえました thought; considered。

私は彼に向って向むかって turn to、余計な余計よけいな extra; excessive仕事仕事しごと work; toilをするのは止せ止よせ stop; ceaseといいました。そうして当分当分とうぶん for a while身体を楽にして身体からだを楽らくにして rest oneself; take it easy、遊ぶ遊あそぶ engage in leisure方方ほう alternativeが大きな大おおきな big; grand将来将来しょうらい futureのために得策得策とくさく good plan; best betだと忠告しました忠告ちゅうこくしました cautioned; advised。剛情な剛情ごうじょうな obstinate; stubbornKの事ですから、容易に容易よういに easily私のいう事などは聞くまい聞きくまい not apt to listen; unlikely to listenと、かねてかねて beforehand; in advance予期していた予期よきしていた anticipated; was expectingのですが、実際実際じっさい actually; in factいい出していい出だして broached (a subject)見ると、思ったよりも説き落す説とき落おとす wear into submission; win overのに骨が折れた骨ほねが折おれた required great effortので弱りました弱よわりました was at one's wits end; was stumped。Kはただ学問が自分の目的目的もくてき aim; objectiveではないと主張する主張しゅちょうする assert; insistのです。意志の力意志いしの力ちから willpower; force of willを養って養やしなって cultivate; develop強い強つよい strong; resilient人人ひと person; manになるのが自分の考えだというのです。それにはなるべく窮屈な窮屈きゅうくつな constrained; uncomfortable境遇境遇きょうぐう environment; circumstancesにいなくてはならないと結論する結論けつろんする conclude; figure; reckonのです。普通の人から見れば、まるで酔興酔興すいきょう aberrant; eccentricです。その上その上うえ on top of that; furthermore窮屈な境遇にいる彼の意志は、ちっとも強くなっていないのです。彼はむしろ神経衰弱神経しんけい衰弱すいじゃく nervous breakdownに罹って罹かかって suffer (from); be afflicted (with)いるくらいなのです。私は仕方がない仕方しかたがない (there's) nothing for itから、彼に向って至極至極しごく utterly; entirely同感同感どうかん sympatheticであるような様子様子ようす signs; indicationsを見せました。自分もそういう点点てん pointに向って、人生人生じんせい one's lifeを進む進すすむ carry forwardつもりだったとついには明言しました明言めいげんしました declared; stated。(もっともこれは私に取ってに取とって to ...; for ...まんざらまんざら altogether; entirely空虚な空虚くうきょな empty; vacant言葉言葉ことば wordsでもなかったのです。Kの説説せつ opinions; viewsを聞いていると、段々そういうところに釣り込まれて来る釣つり込こまれて来くる be pulled into; be carried away byくらい、彼には力があったのですから)。最後に最後さいごに finally私はKといっしょに住んで住すんで live; reside、いっしょに向上向上こうじょう progress; improvementの路路みち path; wayを辿って行きたい辿たどって行ゆきたい want to follow; wish to pursueと発議しました発議ほつぎしました proposed。私は彼の剛情を折り曲げる折おり曲まげる bendために、彼の前前まえ before; front ofに跪く跪ひざまずく kneel down; genuflect事をあえてあえて purposely; deliberatelyしたのです。そうして漸との事で漸やっとの事ことで somehow; just managing彼を私の家家いえ homeに連れて来ました連つれて来きました brought (into)。

二十三二十三にじゅうさん (part) 23

「私私わたくし I; meの座敷座敷ざしき roomには控えの間控ひかえの間ま anteroom; outer roomというような四畳四畳よんじょう four-mat (room)が付属して付属ふぞくして be attached to; belong toいました。玄関玄関げんかん entry hallを上がって上あがって come up (into)私のいる所所ところ placeへ通ろう通とおろう pass through (to)とするには、ぜひこの四畳を横切らなければならない横切よこぎらなければならない have to cut across; have to traverseのだから、実用実用じつよう practicality; utilityの点点てん point; aspectから見る見みる view; look atと、至極至極しごく extremely不便な不便ふべんな unwieldy; of no use室室へや roomでした。私はここへKを入れた入いれた put intoのです。もっとも最初最初さいしょ at firstは同じ同おなじ the same八畳八畳はちじょう eight-mat (room)に二つ二ふたつ two (things)机机つくえ desksを並べて並ならべて line up; place side by side、次の次つぎの adjoining間間ま room; spaceを共有にして置く共有きょうゆうにして置おく reserve for shared use考え考かんがえ thought; ideaだったのですが、Kは狭苦しくっても狭苦せまくるしくっても even if cramped; even if confined一人一人ひとり alone; by oneselfでいる方方ほう alternative (of two choices)が好い好いい better; preferableといって、自分自分じぶん oneselfでそっちのほうを択んだ択えらんだ selected; choseのです。

前前まえ earlier; beforeにも話した話はなした noted; described通り通とおり just as; exactly as、奥さん奥おくさん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)は私のこの所置所置しょち step; measure (usually 処置しょち)に対してに対たいして with respect to; regarding始め始はじめ at first; initiallyは不賛成不賛成ふさんせい against; opposed toだったのです。下宿屋下宿屋げしゅくや boarding houseならば、一人より二人二人ふたり two peopleが便利便利べんり expedient; advantageousだし、二人より三人三人さんにん three peopleが得得とく beneficialになるけれども、商売商売しょうばい business; occupationでないのだから、なるべくなら止した止よした cease; desist方が好いというのです。私が決して決けっして by (no) means世話の焼ける世話せわの焼やける troublesome; burdensome人人ひと personでないから構うまい構かまうまい shouldn't be a problemというと、世話は焼けないでも、気心気心きごころ temper; dispositionの知れない知しれない not know; be unfamiliar with人は厭厭いや disagreeable; not to one's likingだと答える答こたえる reply; respondのです。それでは今今いま now; at present厄介になっている厄介やっかいになっている under one's care私だって同じ事事こと situation; state of affairsではないかと詰る詰なじる reproach; reproveと、私の気心は初めからよく分って分わかって know; comprehendいると弁解して弁解べんかいして defend; rationalize已まない已やまない not give up; not back downのです。私は苦笑しました苦笑くしょうしました responded with a wry smile。すると奥さんはまた理屈理屈りくつ reasoning; argumentの方向方向ほうこう direction; angleを更えます更かえます change; alter。そんな人を連れて来る連つれて来くる bring inのは、私のために悪い悪わるい not good; detrimentalから止せといい直しますいい直なおします restate。なぜ私のために悪いかと聞く聞きく ask; inquireと、今度今度こんど this timeは向う向むこう the other side; the other partyで苦笑するのです。

実実じつ the truthをいうと私だって強いて強しいて by force; through insistenceKといっしょにいる必要必要ひつよう necessity; needはなかったのです。けれども月々の月々つきづきの monthly費用費用ひよう expensesを金金かね moneyの形形かたち format; formで彼彼かれ he; himの前前まえ front ofに並べて見せる並ならべて見みせる lay out (for someone) to seeと、彼はきっとそれを受け取る受うけ取とる receive; accept時時とき time; momentに躊躇する躊躇ちゅうちょする hesitate; waverだろうと思った思おもった thought; believedのです。彼はそれほど独立心独立心どくりつしん independent spiritの強い強つよい strong; forceful男男おとこ man; fellowでした。だから私は彼を私の宅宅うち house; homeへ置いて置おいて take in; provide lodging、二人前二人前ふたりまえ for twoの食料食料しょくりょう food (expenses); boardを彼の知らない間間ま interval; period (of time)にそっと奥さんの手手て handに渡そう渡わたそう pass; give (to)としたのです。しかし私はKの経済問題経済けいざい問題もんだい financial problemsについて、一言も一言いちごんも (not) a word奥さんに打ち明ける打うち明あける reveal; disclose気気き intention; inclinationはありませんでした。

私私わたくし I; meはただKの健康健康けんこう healthについて云々しました云々うんぬんしました said something or other; made various mention。一人で置く一人ひとりで置おく leave aloneとますます人間人間にんげん a personが偏屈偏屈へんくつ eccentric; idiosyncraticになるばかりだからといいました。それに付け足して付つけ足たして add (to)、Kが養家養家ようか adoptive familyと折合折合おりあい relationsの悪かった悪わるかった were no good; had soured事事こと situation; state of affairsや、実家実家じっか birth familyと離れてしまった離はなれてしまった was estranged (from)事や、色々色々いろいろ various (things)話して聞かせました話はなして聞きかせました told; related。私は溺れかかった溺おぼれかかった is drowning人人ひと person; individualを抱いて抱いだいて take hold of; embrace、自分の自分じぶんの one's own熱熱ねつ heat; warmthを向う向むこう the other partyに移してやる移うつしてやる transfer to; impart to覚悟覚悟かくご readiness; resolutionで、Kを引き取る引ひき取とる take in; look afterのだと告げました告つげました informed。そのつもりであたたかい面倒を見てやってあたたかい面倒めんどうを見みてやって provide with warm attention; give special care toくれと、奥さん奥おくさん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)にもお嬢さんお嬢じょうさん daughter; young ladyにも頼みました頼たのみました requested。私はここまで来て来きて come (to); arrive (at)漸々漸々ようよう gradually; by degrees奥さんを説き伏せた説とき伏ふせた persuaded; convincedのです。しかし私から何にも何なんにも (no) thing聞かない聞きかない not hearKは、この顛末顛末てんまつ detailsをまるで知らずに知しらずに without knowingいました。私もかえってそれを満足に思って満足まんぞくに思おもって regard as proper; prefer、のっそりのっそり stolidly; with some reluctance引き移って来た引ひき移うつって来きた moved inKを、知らん顔知しらん顔かお with (a look of) indifferenceで迎えました迎むかえました greeted; welcomed。

奥さんとお嬢さんは、親切に親切しんせつに kindly; gently彼彼かれ he; himの荷物荷物にもつ baggage; possessionsを片付ける片付かたづける put away; place in order世話世話せわ help; assistanceや何か何なにか something; (various) thingsをしてくれました。すべてそれを私に対するに対たいする with respect to; regarding好意好意こうい favor; courtesyから来たのだと解釈した解釈かいしゃくした interpreted; took; saw (as)私は、心のうちで心こころのうちで inwardly; to oneself喜びました喜よろこびました was pleased。――Kが相変らず相変あいかわらず as usual; as alwaysむっちりしたむっちりした heavy; somber; sullen様子様子ようす look; appearanceをしているにもかかわらず。

私がKに向って向むかって turn to新しい新あたらしい new住居住居すまい dwelling; quartersの心持心持こころもち feeling; impressionはどうだと聞いた時時とき time; occasionに、彼はただ一言一言いちげん (in a) few words悪くないといっただけでした。私からいわせれば悪くないどころではないのです。彼の今今いま now; the presentまでいた所所ところ placeは北向き北向きたむき north-facingの湿っぽい湿しめっぽい damp; dank臭い臭におい smells; odors; stenchのする汚い汚きたない filthy; dirty室室へや roomでした。食物食物くいもの food; fareも室相応相応そうおう befitting of; in keeping withに粗末粗末そまつ rough; crudeでした。私の家家うち house; homeへ引き移った彼は、幽谷幽谷ゆうこく deep ravineから喬木喬木きょうぼく tall tree; tree topに移った趣趣おもむき effect; meaningがあったくらいです。それをさほどに思う気色気色けしき sign; indicationを見せないのは、一つ一ひとつ one thingは彼の強情強情ごうじょう obstinanceから来ているのですが、一つは彼の主張主張しゅちょう opinions; tenetsからも出ている出でている come; arise (from)のです。仏教仏教ぶっきょう Buddhismの教義教義きょうぎ doctrine; dogmaで養われた養やしなわれた was brought up; was reared彼は、衣食住衣食住いしょくじゅう necessities of life (clothing, food, and shelter)についてとかくのとかくの tendency toward贅沢贅沢ぜいたく luxury; extravaganceをいうのをあたかも不道徳不道徳ふどうとく amoral; improperのように考えていました考かんがえていました regarded; thought of (as)。なまじいなまじい unconventional; extraordinary昔昔むかし former times; long agoの高僧高僧こうそう virtuous priestsだとか聖徒聖徒セーント saintsだとかの伝伝でん biographiesを読んだ読よんだ read彼には、ややともするとややともすると apt to; inclined to精神精神せいしん spiritと肉体肉体にくたい fleshとを切り離したがる切きり離はなしたがる want to separate癖癖くせ tendencyがありました。肉肉にく the fleshを鞭撻すれば鞭撻べんたつすれば whip; scourge霊霊れい soul; spiritの光輝光輝こうき splendorが増す増ます increase; growように感ずる感かんずる feel; sense場合場合ばあい cases; situationsさえあったのかも知れませんかも知しれません it may be that ...。

私はなるべく彼に逆らわない逆さからわない not oppose; not defy方針方針ほうしん policy; course of actionを取りました取とりました took; adopted。私は氷氷こおり iceを日向日向ひなた sunny placeへ出して出だして put out; set out (in)溶かす溶とかす melt工夫工夫くふう means; measureをしたのです。今に融けて融とけて melt温かい温あたたかい warm水水みず waterになれば、自分で自分に気が付く気きが付つく notice; realize; become aware時機時機じき time; occasionが来る来くる come; arriveに違いないに違ちがいない no doubt ...と思ったのです。

二十四二十四にじゅうし (part) 24

「私私わたくし I; meは奥さん奥おくさん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)からそういう風風ふう manner; methodに取り扱われた取とり扱あつかわれた was handled; was treated結果結果けっか result; consequence、段々段々だんだん gradually; bit by bit快活快活かいかつ cheerful; lightheartedになって来たなって来きた came to be ...のです。それを自覚していた自覚じかくしていた was aware of; was conscious ofから、同じ同おなじ the sameものを今度今度こんど this timeはKの上にの上うえに with regard to; concerning応用しよう応用おうようしよう apply; put to useと試みた試こころみた tried; venturedのです。Kと私とが性格性格せいかく nature; dispositionの上において、大分大分だいぶ very much; a great deal相違相違そうい (mutual) differenceのある事事こと situation; circumstanceは、長く長ながく for a long time交際って来た交際つきあって来きた associated; kept company (with someone)私によく解っていました解わかっていました knew; understoodけれども、私の神経神経しんけい nervesがこの家庭家庭かてい home; householdに入って入はいって enter (into)から多少多少たしょう somewhat; to some degree角が取れた角かどが取とれた were softened; were soothedごとく、Kの心心こころ heart; soulもここに置けば置おけば take in; provide lodgingいつか沈まる沈しずまる settle; relax事があるだろうと考えた考かんがえた thought; reasonedのです。

Kは私より強い強つよい strong決心決心けっしん determination; resolutionを有して有ゆうして have; possessいる男男おとこ man; fellowでした。勉強勉強べんきょう studiesも私の倍倍ばい twice as much; doubleぐらいはしたでしょう。その上持って生れた持もって生うまれた was born with頭頭あたま head; mindの質質たち quality; natureが私よりもずっとよかったのです。後では後あとでは afterwards; later専門専門せんもん specialty; area of expertiseが違いました違ちがいました were differentから何とも何なんとも (no) thingいえませんが、同じ同おなじ the same級級きゅう class; gradeにいる間間あいだ interval (of time)は、中学中学ちゅうがく middle schoolでも高等学校高等こうとう学校がっこう high schoolでも、Kの方方ほう alternative (of two choices)が常に常つねに always; at all times上席上席じょうせき top spotを占めて占しめて hold; occupyいました。私には平生から平生へいぜいから ordinarily; always何をしても何なにをしても in any endeavorKに及ばない及およばない not measure up; not match; not equalという自覚自覚じかく self-awarenessがあったくらいです。けれども私が強いて強しいて by force; through insistenceKを私の宅宅うち house; homeへ引っ張って来た引ひっ張ぱって来きた pulled in; brought along時時とき timeには、私の方がよく事理を弁えて事理じりを弁わきまえて be sensible; have good senseいると信じて信しんじて believeいました。私にいわせると、彼彼かれ he; himは我慢我慢がまん self-restraint; self-denialと忍耐忍耐にんたえ perseverance; patienceの区別区別くべつ distinctionを了解していない了解りょうかいしていない not understand; fail to comprehendように思われた思おもわれた seemed that ...のです。これはとくにあなたのために付け足して付つけ足たして addおきたいのですから聞いて下さい聞きいて下ください please take note。肉体肉体にくたい body; fleshなり精神精神せいしん soul; spiritなりすべて我々我々われわれ we; usの能力能力のうりょく ability; facultyは、外部の外部がいぶの external刺戟刺戟しげき stimulus; provocationで、発達もする発達はったつもする grow; developし、破壊されもする破壊はかいされもする be destroyed; be torn downでしょうが、どっちにしても刺戟を段々に強くする必要必要ひつよう necessity; needのあるのは無論無論むろん natural; a matter of courseですから、よく考えないと、非常に非常ひじょうに extremely; exceedingly険悪な険悪けんあくな dangerous; perilous方向方向ほうこう directionへむいて進んで行きながら進すすんで行ゆきながら move forward、自分自分じぶん oneselfはもちろん傍のもの傍はたのもの those nearbyも気が付かずに気きが付つかずに without noticing; unawaresいる恐れ恐おそれ fear; concernが生じてきます生しょうじてきます come about; occur。医者医者いしゃ doctor; physicianの説明説明せつめい explanationを聞くと、人間人間にんげん human beingの胃袋胃袋いぶくろ stomachほど横着な横着おうちゃくな indolent; slothfulものはないそうです。粥粥かゆ rice gruelばかり食って食くって eatいると、それ以上以上いじょう beyond; more thanの堅い堅かたい firm; solidものを消化す消化こなす digest力力ちから abilityがいつの間にかいつの間まにか before one knows itなくなってしまうのだそうです。だから何でも食う稽古稽古けいこ practice; trainingをしておけと医者はいうのです。けれどもこれはただ慣れる慣なれる grow accustomed toという意味意味いみ meaningではなかろうと思います。次第に次第しだいに gradually; in steps刺戟を増す増ます increaseに従ってに従したがって in accordance with、次第に営養営養えいよう nutrition; nourishment機能機能きのう faculty; functionの抵抗力抵抗力ていこうりょく resistance; resisting forceが強くなるという意味でなくてはなりますまい。もし反対に反対はんたいに conversely胃胃い stomachの力の方がじりじりじりじり little by little弱って行った弱よわって行いった grow weaker; declineなら結果はどうなるだろうと想像して想像そうぞうして think of; imagineみればすぐ解る事です。Kは私より偉大な偉大いだいな great; grand男でしたけれども、全く全まったく wholly; completelyここに気が付いていなかったのです。ただ困難困難こんなん difficulty; distressに慣れてしまえば、しまいにその困難は何でもなくなるものだと極めて極きめて decided; concludedいたらしいのです。艱苦艱苦かんく hardship; privationを繰り返せば繰くり返かえせば repeat、繰り返すというだけの功徳功徳くどく virtuous deed; act of meritで、その艱苦が気にかからなくなる時機時機じき time; occasionに邂逅える邂逅めぐりあえる come across; happen to meet withものと信じ切っていた信しんじ切きっていた firmly believed; was convinced ofらしいのです。

私私わたくし I; meはKを説く説とく reason with; work onときに、ぜひそこを明らかにして明あきらかにして elucidate; make clearやりたかったのです。しかしいえばきっと反抗される反抗はんこうされる be met with resistance; face defianceに極っていましたに極きまっていました was a given that ...。また昔昔むかし former times; long agoの人人ひと person; individualの例例れい example; caseなどを、引合引合ひきあい reference; comparisonに持って来る持もって来くる bring up; produceに違いないに違ちがいない no doubt ...と思いました思おもいました figured; reckoned。そうなれば私だって、その人たちとKと違っている違ちがっている are different; are not the same点点てん pointを明白に明白めいはくに overtly; plainly述べなければならなくなります述のべなければならなくなります would have to state; would be compelled to mention。それを首肯ってくれる首肯うけがってくれる be wont to accept; be amenable toようなKならいいのですけれども、彼彼かれ he; himの性質性質せいしつ nature; dispositionとして、議論議論ぎろん argument; discussionがそこまでゆくと容易に後へは返りません容易よういに後あとへは返かえりません would not easily back down。なお先へ出ますなお先さきへ出でます pursue (a matter) even further。そうして、口で口くちで verbally先へ出た通り通とおり just as; exactly asを、行為行為こうい actions; conductで実現しに掛ります実現じつげんしに掛かかります work to realize。彼はこうなると恐るべき恐おそるべき formidable; fearsome男男おとこ manでした。偉大偉大いだい greatnessでした。自分自分じぶん oneselfで自分を破壊しつつ破壊はかいしつつ destroy; tear down進みます進すすみます move forward; advance。結果結果けっか result; outcomeから見れば見みれば view; look at、彼はただ自己の自己じこの one's own成功成功せいこう successを打ち砕く打うち砕くだく dash (to pieces); crush意味意味いみ meaningにおいて、偉大なのに過ぎないに過すぎない no more than; onlyのですけれども、それでも決して決けっして by (no) means平凡平凡へいぼん ordinary; commonplaceではありませんでした。彼の気性気性きしょう disposition; temperamentをよく知った知しった knew; was acquainted with私はついに何とも何なんとも (no)thingいう事ができなかった事ことができなかった was unable to ...のです。その上その上うえ on top of that; furthermore私から見ると、彼は前前まえ before; priorにも述べた述のべた mentioned; noted通り、多少多少たしょう to some degree神経衰弱神経しんけい衰弱すいじゃく nervous breakdownに罹っていた罹かかっていた suffered (from); was afflicted (with)ように思われたのです。よし私が彼を説き伏せた説とき伏ふせた argued into submission; prevailed overところで、彼は必ず必かならず without fail; most certainly激する激げきする get worked up; lose one's composureに違いないのです。私は彼と喧嘩をする喧嘩けんかをする argue; quarrel事は恐れてはいませんでした恐おそれてはいませんでした was not afraid ofけれども、私が孤独孤独こどく isolation; lonelinessの感感かん feelings; emotionsに堪えなかった堪たえなかった couldn't bear; could hardly withstand自分の境遇境遇きょうぐう circumstancesを顧みる顧かえりみる look back upon; reflect onと、親友親友しんゆう close friendの彼を、同じ同おなじ the same孤独の境遇に置く置おく leave (behind)のは、私に取ってに取とって to; for忍びない忍しのびない be unbearable事でした。一歩一歩いっぽ one step進んで、より孤独な境遇に突き落す突つき落おとす shove; thrust (into)のはなお厭厭いや distasteful; disagreeableでした。それで私は彼が宅宅うち (our) house; homeへ引き移って引ひき移うつって move; relocateからも、当分の間当分とうぶんの間あいだ for a whileは批評批評ひひょう criticismがましいがましい looking like; smacking of批評を彼の上に加えずに加くわえずに without inflicting; without doling outいました。ただ穏やかに穏おだやかに calmly; quietly周囲周囲しゅうい surroundingsの彼に及ぼす及およぼす exert; exercise結果を見る事にしたのです。

二十五二十五にじゅうご (part) 25

「私私わたくし I; meは蔭蔭かげ shadows; backgroundへ廻って廻まわって move around; shift around (to)、奥さん奥おくさん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)とお嬢さんお嬢じょうさん daughter; young ladyに、なるべくKと話をする話はなしをする talk; converseように頼みました頼たのみました asked; requested。私は彼彼かれ he; himのこれまで通って来た通とおって来きた traveled; traversed無言無言むごん silent; reticent生活生活せいかつ lifestyle; lifeが彼に祟って祟たたって cast a shadow; invite misfortuneいるのだろうと信じた信しんじた believedからです。使わない使つかわない not put to use鉄鉄てつ iron; steelが腐る腐くさる decay; degradeように、彼の心心こころ heart; soulには錆錆さび rustが出ていた出でていた had emerged; had appearedとしか、私には思われなかった思おもわれなかった could (only) conclude thatのです。

奥さんは取り付き把のない取とり付つき把はのない unapproachable人人ひと person; manだといって笑って笑わらって laugh; smileいました。お嬢さんはまたわざわざその例例れい example; instanceを挙げて挙あげて raise; cite (an example)私に説明して聞かせる説明せつめいして聞きかせる explain (to someone)のです。火鉢火鉢ひばち hibachi; brazierに火火ひ fireがあるかと尋ねる尋たずねる ask; inquireと、Kはないと答える答こたえる answer; replyそうです。では持って来よう持もって来きよう shall I bring (usually 持もって来こよう)というと、要らない要いらない don't needと断る断ことわる refuse; declineそうです。寒くはないか寒さむくはないか isn't it coldと聞くと、寒いけれども要らないんだといったぎり応対応対おうたい dealings; interactionをしないのだそうです。私はただ苦笑して苦笑くしょうして laugh a forced laughいる訳にもゆきません訳わけにもゆきません could not very well ...。気の毒気きの毒どく unfortunateだから、何とかいって何なんとかいって in some mannerその場場ば situation; sceneを取り繕って取とり繕つくろって repair; mend; smooth overおかなければ済まなくなります済すまなくなります would no longer do to ...。もっともそれは春春はる springtime; springの事事こと matter; affairですから、強いて強しいて by force; by compulsion火にあたる必要必要ひつよう necessity; needもなかったのですが、これでは取り付き把がないといわれるのも無理はない無理むりはない not unreasonableと思いました。

それで私はなるべく、自分自分じぶん oneselfが中心中心ちゅうしん middle; centerになって、女二人女おんな二人ふたり the two womenとKとの連絡連絡れんらく contact; communicationをはかるように力めました力つとめました worked; endeavored。Kと私が話している所所ところ site; sceneへ家家うち house; householdの人を呼ぶ呼よぶ call; summonとか、または家の人と私が一つ室一ひとつ室へや one roomに落ち合った落おち合あった were together; had gathered所へ、Kを引っ張り出す引ひっ張ぱり出だす pull inとか、どっちでもその場合場合ばあい situation; circumstancesに応じた応おうじた responding (to); complying (with)方法方法ほうほう method; meansをとって、彼らを接近させよう接近せっきんさせよう bring together; work to draw closerとしたのです。もちろんKはそれをあまり好みませんでした好このみませんでした did not like; did not appreciate。ある時時とき time; occasionはふいと起って起たって get up; rise室の外室へやの外そと out of the roomへ出ました。またある時はいくら呼んでもなかなか出て来ませんでした。Kはあんな無駄話無駄話むだばなし idle talkをしてどこが面白い面白おもしろい of interestというのです。私はただ笑っていました。しかし心の中では心こころの中うちでは deep down; inside、Kがそのために私を軽蔑して軽蔑けいべつして look down on; view with contemptいることがよく解りました解わかりました understood; was aware。

私私わたくし I; meはある意味意味いみ meaningから見て見みて look at; view実際実際じっさい actually; in fact彼彼かれ he; himの軽蔑軽蔑けいべつ contempt; scornに価していた価あたいしていた deserved; meritedかも知れませんかも知しれません it may be that ...。彼の眼眼め eyesの着け所着つけ所どころ focus of attentionは私より遥かに遥はるかに by far高い高たかい high; nobleところにあったともいわれるでしょう。私もそれを否みはしません否いなみはしません don't deny; won't refute。しかし眼だけ高くって、外外ほか remainder; the restが釣り合わない釣つり合あわない not balance; not alignのは手もなく手てもなく just like; as it were不具不具かたわ an odd setです。私は何を措いても何なにを措おいても before all else、この際この際さい on this occasion; at this time彼を人間らしくする人間にんげんらしくする make humanのが専一専一せんいち of utmost importanceだと考えた考かんがえた thought; figuredのです。いくら彼の頭頭あたま head; mindが偉い偉えらい remarkable; exceptional人人ひと persons; personagesの影像影像イメジ imagesで埋まって埋うずまって be burried under; be filled withいても、彼自身彼かれ自身じしん he himselfが偉くなってゆかない以上以上いじょう unless ... (with negative verb)は、何の役にも立たない何なんの役やくにも立たたない be of no use; serve no purposeという事事こと fact; truthを発見した発見はっけんした realizedのです。私は彼を人間らしくする第一の第一だいいちの first; foremost手段手段しゅだん step; measureとして、まず異性異性いせい opposite sexの傍傍そば vicinity; proximity; near toに彼を坐らせる坐すわらせる put; place方法方法ほうほう methodを講じた講こうじた worked out; schemedのです。そうしてそこから出る出でる come; emerge (from)空気空気くうき air; ambienceに彼を曝した曝さらした exposed to上上うえ on top of; starting with、錆び付きかかった錆さび付つきかかった showed signs of rust彼の血液血液けつえき blood; lifebloodを新しくしよう新あたらしくしよう renew; reviveと試みた試こころみた tried; attemptedのです。

この試みは次第に次第しだいに gradually; by degrees成功しました成功せいこうしました succeeded。初めのうち初はじめのうち at first融合しにくい融合ゆうごうしにくい hard to blend; hard to mergeように見えたものが、段々段々だんだん little by little; bit by bit一つ一ひとつ one (thing)に纏まって来出しました纏まとまって来出きだしました began to come together。彼は自分自分じぶん oneself以外以外いがい apart from; besidesに世界世界せかい worldのある事を少しずつ少すこしずつ a little at a time悟ってゆく悟さとってゆく awaken to; grow aware ofようでした。彼はある日ある日ひ one day私に向って向むかって turn toward、女女おんな women; femalesはそう軽蔑すべきものでないというような事をいいました。Kははじめ女からも、私同様同様どうよう like; similar toの知識知識ちしき knowledge; knowhowと学問学問がくもん scholarship; learningを要求して要求ようきゅうして demand; seek; desireいたらしいのです。そうしてそれが見付からない見付みつからない not be foundと、すぐ軽蔑の念念ねん feelingを生じた生しょうじた produced; summoned upものと思われます思おもわれます it seems that ...。今今いま now; the presentまでの彼は、性性せい sex; genderによって立場立場たちば position; stanceを変える変かえる change; alter事を知らずに知しらずに not knowing to ...、同じ同おなじ the same視線視線しせん glance; gazeですべての男女男女なんにょ men and womenを一様に一様いちように indiscriminately観察して観察かんさつして regard; observeいたのです。私は彼に、もし我ら我われら we; us二人二人ふたり two (people)だけが男同志男おとこ同志どうし fellow menで永久に永久えいきゅうに perpetually; for all time話話はなし dialog; discourseを交換して交換こうかんして exchangeいるならば、二人はただ直線的に直線的ちょくせんてきに in a straight line; directly先先さき forward; aheadへ延びて行く延のびて行いく extend; growに過ぎないに過すぎない (amount to) no more thanだろうといいました。彼はもっともだと答えました答こたえました replied; answered。私はその時時とき timeお嬢さんお嬢じょうさん daughter; young ladyの事で、多少多少たしょう somewhat; to some degree夢中になっている夢中むちゅうになっている be taken with; be mad about頃頃ころ period (of time)でしたから、自然自然しぜん naturally; as matter of courseそんな言葉言葉ことば words; expressionも使う使つかう use; applyようになったのでしょう。しかし裏面裏面りめん other side; backgroundの消息消息しょうそく movements; eventsは彼には一口一口ひとくち one word; a single wordも打ち明けませんでした打うち明あけませんでした didn't divulge。

今まで書物書物しょもつ booksで城壁城壁じょうへき ramparts; castle wallsをきずいてその中中なか inside; withinに立て籠って立たて籠こもって shut oneself away; hole up (in)いたようなKの心心こころ heart; mindが、段々打ち解けて来る打うち解とけて来くる open up; break out (of one's shell)のを見ているのは、私に取ってに取とって to; for何よりも愉快愉快ゆかい pleasant; agreeableでした。私は最初から最初さいしょから from the startそうした目的目的もくてき objective; aimで事をやり出したやり出だした started on; engaged inのですから、自分の成功に伴う伴ともなう accompany喜悦喜悦きえつ joy; delightを感ぜずにはいられなかった感かんぜずにはいられなかった couldn't help but feelのです。私は本人本人ほんにん the person in questionにいわない代りに代かわりに in place of; instead of、奥さん奥おくさん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)とお嬢さんに自分の思った通り思おもった通とおり just as one thinksを話しました話はなしました conveyed; related。二人も満足満足まんぞく satisfaction; contentmentの様子様子ようす appearance; lookでした。

二十六二十六にじゅうろく (part) 26

「Kと私私わたくし I; meは同じ同おなじ the same科科か (academic) departmentにおりながら、専攻専攻せんこう one's (academic) specialtyの学問学問がくもん scholarship; learningが違っていました違ちがっていました was dissimilar; was differentから、自然自然しぜん naturally; as a matter of course出る出でる leave; depart時時とき timeや帰る帰かえる return (home)時に遅速遅速ちそく sooner and later; inconsistent timesがありました。私の方方ほう alternative (of two choices)が早ければ早はやければ quick; early、ただ彼彼かれ he; himの空室空室くうしつ empty roomを通り抜ける通とおり抜ぬける pass throughだけですが、遅い遅おそい slow; lateと簡単な簡単かんたんな simple挨拶挨拶あいさつ greeting; salutationをして自分の自分じぶんの one's own部屋部屋へや roomへはいるのを例例れい usual practiceにしていました。Kはいつもの眼眼め eyes; lookを書物書物しょもつ bookからはなして、襖襖ふすま fusuma (sliding door)を開ける開あける open私をちょっと見ます見みます look at; glance at。そうしてきっと今今いま (just) now帰ったのかといいます。私は何も答えないで何なにも答こたえないで without answering点頭く点頭うなずく nod事事こと case; instanceもありますし、あるいはただ「うん」と答えて行き過ぎる行ゆき過すぎる go by; pass by場合場合ばあい case; situationもあります。

ある日ある日ひ one day私は神田神田かんだ Kanda (place name)に用用よう business; errandsがあって、帰りがいつもよりずっと後れました後おくれました was late。私は急ぎ足に急いそぎ足あしに at a quick pace門前門前もんぜん before the gate; in front of the gateまで来て来きて come (to)、格子格子こうし latticework (door)をがらりとがらりと with a clatter; noisily開けました。それと同時に同時どうじに at the same time (as)、私はお嬢さんお嬢じょうさん daughter; young ladyの声声こえ voiceを聞いた聞きいた heardのです。声は慥かに慥たしかに definitely; without doubtKの室室へや roomから出たと思いました思おもいました thought。玄関玄関げんかん entry hall; entrywayから真直真直まっすぐ straight; directに行けば行ゆけば go; proceed、茶の間茶ちゃの間ま tea room; hearth room、お嬢さんの部屋と二つ二ふたつ two (things)続いていて続つづいていて in succession; one after another、それを左左ひだり leftへ折れる折おれる turnと、Kの室、私の室、という間取間取まどり house plan; arrangement of roomsなのですから、どこで誰誰だれ whoの声がしたくらいは、久しく久ひさしく for a long while厄介になっている厄介やっかいになっている live under someone's care私にはよく分る分わかる know; understandのです。私はすぐ格子を締めました締しめました closed。するとお嬢さんの声もすぐ已みました已やみました stopped; ceased。私が靴靴くつ shoesを脱いで脱ぬいで take offいるうち、――私はその時分時分じぶん time; periodからハイカラハイカラ stylish; smartで手数のかかる手数てかずのかかる be burdensome; be a bother編上編上あみあげ high-laced shoesを穿いていた穿はいていた woreのですが、――私がこごんでこごんで bend down; crouchその靴紐靴紐くつひも shoelacesを解いて解といて untie; unfasten; loosenいるうち、Kの部屋では誰の声もしませんでした。私は変変へん odd; peculiarに思いました。ことによると、私の疳違疳違かんちがい wrong conclusion; mistaken impressionかも知れないかも知しれない might be ...と考えた考かんがえた thought; consideredのです。しかし私がいつもの通りいつもの通とおり as alwaysKの室を抜けようとして、襖を開けると、そこに二人二人ふたり two (people); the two of themはちゃんと坐って坐すわって sit; be seatedいました。Kは例の通り例れいの通とおり as was (his) custom; per habit今帰ったかといいました。お嬢さんも「お帰り」と坐ったままで挨拶しました。私には気のせい気きのせい just in one's mind; imagination onlyかその簡単な挨拶が少し少すこし a little; a bit硬い硬かたい stiff; strainedように聞こえました。どこかで自然を踏み外して踏ふみ外はずして stray fromいるような調子調子ちょうし manner; toneとして、私の鼓膜鼓膜こまく eardrumsに響いた響ひびいた reverberated; resoundedのです。私はお嬢さんに、奥さん奥おくさん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)はと尋ねました尋たずねました asked; inquired。私の質問質問しつもん questionには何の何なんの (no) sort of意味意味いみ meaningもありませんでした。家家いえ houseのうちが平常平常へいじょう usual; normalより何だかひっそりしていたから聞いて見ただけの事です。

奥さん奥おくさん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)ははたして留守留守るす out of the house; awayでした。下女下女げじょ maidservantも奥さんといっしょに出た出でた departed; went outのでした。だから家家うち house; homeに残って残のこって remain; be leftいるのは、Kとお嬢さんお嬢じょうさん daughter; young ladyだけだったのです。私私わたくし I; meはちょっと首を傾けました首くびを傾かたむけました inclined one's head (in puzzlement)。今今いま now; the presentまで長い長ながい long; lengthy間間あいだ interval (of time)世話になって世話せわになって be under (someone's) careいたけれども、奥さんがお嬢さんと私だけを置き去りにして置おき去ざりにして leave behind、宅を空けた宅うちを空あけた vacated the house; left the house例例ためし precedent; exampleはまだなかったのですから。私は何か何なにか something; some kind of急用急用きゅうよう urgent businessでもできたのかとお嬢さんに聞き返しました聞きき返かえしました asked in return。お嬢さんはただ笑って笑わらって smile; laughいるのです。私はこんな時時とき time; occasionに笑う女女おんな woman; young ladyが嫌い嫌きらい disagreeable; distastefulでした。若い若わかい young女に共通な共通きょうつうな common; shared点点てん aspect; traitだといえばそれまでかも知れませんかも知しれません it may be that ...が、お嬢さんも下らない下くだらない trivial; trifling事事こと matter; occuranceによく笑いたがる女でした。しかしお嬢さんは私の顔色顔色かおいろ (facial) colorを見て見みて see; notice、すぐ不断の不断ふだんの usual表情表情ひょうじょう expression; lookに帰りました帰かえりました returned (to)。急用ではないが、ちょっと用用よう errandがあって出たのだと真面目に真面目まじめに seriously; honestly答えました答こたえました answered。下宿人下宿人げしゅくにん lodger; boarderの私にはそれ以上それ以上いじょう more than that; beyond that問い詰める問とい詰つめる interrogate; press with questions権利権利けんり privilege; place (to do something)はありません。私は沈黙しました沈黙ちんもくしました fell silent。

私が着物を改めて着物きものを改あらためて change one's clothes席に着くか着かないうちに席せきに着つくか着つかないうちに when just sitting down; when hardly seated、奥さんも下女も帰って来ました帰かえって来きました came home。やがて晩食晩食ばんめし evening meal; dinnerの食卓食卓しょくたく dining tableでみんなが顔を合わせる顔かおを合あわせる come face to face; gather together時刻時刻じこく timeが来ました。下宿した下宿げしゅくした took up lodgings当座当座とうざ for some time (after)は万事万事ばんじ all things客扱い客きゃく扱あつかい treatment as a guestだったので、食事食事しょくじ mealのたびに下女が膳膳ぜん (serving) trayを運んで来て運はこんで来きて bring inくれたのですが、それがいつの間にかいつの間まにか at some point崩れて崩くずれて break down; fall away、飯時飯時めしどき mealtimeには向う向むこう the other side; over thereへ呼ばれて行く呼よばれて行ゆく be called to; be summoned to習慣習慣しゅうかん custom; practiceになっていたのです。Kが新しく新あたらしく newly引き移った引ひき移うつった moved in時も、私が主張して主張しゅちょうして insist; request彼彼かれ he; himを私と同じように同おなじように in the same manner取り扱わせる取とり扱あつかわせる have treat; have deal with事に極めました極きめました decided (on)。その代りその代かわり in exchange私は薄い薄うすい thin; light板板いた boards; planksで造った造つくった made; fashioned (from)足足あし legsの畳み込める畳たたみ込こめる can fold in華奢な華奢きゃしゃな slender; slim食卓を奥さんに寄附しました寄附きふしました presented as a gift (to)。今ではどこの宅でも使って使つかって useいるようですが、その頃頃ころ time; periodそんな卓卓たく tableの周囲周囲しゅうい periphery; edgeに並んで並ならんで in a row; side by side飯を食う食くう eat家族家族かぞく familyはほとんどなかったのです。私はわざわざ御茶の水御茶おちゃの水みず Ochanomizu (place name)の家具屋家具屋かぐや furniture shopへ行って行いって go (to)、私の工夫通り工夫くふう通どおり as schemed; as devisedにそれを造り上げさせた造つくり上あげさせた had made; had fashionedのです。

私はその卓上卓上たくじょう at the tableで奥さんからその日日ひ dayいつもの時刻に肴屋肴屋さかなや fish vendorが来なかった来こなかった didn't comeので、私たちに食わせるものを買いに買かいに to buy町町まち townへ行かなければならなかった行ゆかなければならなかった had to go (to)のだという説明説明せつめい explanationを聞かされました。なるほど客客きゃく guestを置いて置おいて take in; provide lodging forいる以上以上いじょう given that ...、それももっともな事だと私が考えた考かんがえた realized時、お嬢さんは私の顔を見てまた笑い出しました笑わらい出だしました started laughing。しかし今度今度こんど this timeは奥さんに叱られて叱しかられて be scoldedすぐ已めました已やめました stopped; ceased。

二十七二十七にじゅうしち (part) 27

「一週間一週間いっしゅうかん one weekばかりして私私わたくし I; meはまたKとお嬢さんお嬢じょうさん daughter; young ladyがいっしょに話して話はなして talk; converseいる室室へや roomを通り抜けました通とおり抜ぬけました passed through。その時時とき time; occasionお嬢さんは私の顔顔かお faceを見る見みる look atや否やや否いなや as soon as笑い出しました笑わらい出だしました started laughing; broke out laughing。私はすぐ何何なに whatがおかしいのかと聞けばよかった聞きけばよかった should have askedのでしょう。それをつい黙って黙だまって remain silent; hold one's tongue自分の自分じぶんの one's own居間居間いま living space; roomまで来てしまった来きてしまった came (to)のです。だからKもいつものように、今今いま (just) now帰った帰かえった returned; came homeかと声を掛ける声こえを掛かける call to; address事ができなくなりました事ことができなくなりました didn't have a chance to ...。お嬢さんはすぐ障子障子しょうじ shōjiを開けて開あけて open茶の間茶ちゃの間ま tea room; hearth roomへ入った入はいった went into; enteredようでした。

夕飯夕飯ゆうめし evening mealの時、お嬢さんは私を変な変へんな odd; eccentric人人ひと person; manだといいました。私はその時もなぜ変なのか聞かずにしまいました。ただ奥さん奥おくさん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)が睨める睨にらめる glare; look sharply (at)ような眼眼め eyesをお嬢さんに向ける向むける turn toward; direct towardのに気が付いた気きが付ついた took notice (of)だけでした。

私は食後食後しょくご after dinnerKを散歩散歩さんぽ walk; strollに連れ出しました連つれ出だしました invited out (on; for)。二人二人ふたり two (people); the two of usは伝通院伝通院でんずういん Denzūin (Temple)の裏手裏手うらて back sideから植物園植物園しょくぶつえん botanical gardenの通り通とおり avenue; passageをぐるりと廻って廻まわって circle aroundまた富坂富坂とみざか Tomizaka (place name)の下下した bottomへ出ました出でました came out (at; onto)。散歩としては短い短みじかい short方方ほう direction; tendencyではありませんでしたが、その間間あいだ interval (of time)に話した事は極めて極きわめて exceedingly少なかった少すくなかった was limited; was sparseのです。性質性質せいしつ nature; dispositionからいうと、Kは私よりも無口な無口むくちな quiet; reticent; reserved男男おとこ man; fellowでした。私も多弁な多弁たべんな talkative; loquacious方ではなかったのです。しかし私は歩きながら、できるだけ話を彼彼かれ he; himに仕掛けて仕掛しかけて start; beginみました。私の問題問題もんだい issue; subject; topicはおもに二人の下宿して下宿げしゅくして lodge; boardいる家族家族かぞく familyについてでした。私は奥さんやお嬢さんを彼がどう見ているか知りたかった知しりたかった wanted to knowのです。ところが彼は海のものとも山のものとも見分けの付かない海うみのものとも山やまのものとも見分みわけの付つかない elusive; evasive; ambiguous (lit: seemingly neither of ocean nor mountain)ような返事返事へんじ answer; responseばかりするのです。しかもその返事は要領を得ない要領ようりょうを得えない noncommittal; vagueくせにくせに and yet; in spite of、極めて簡単簡単かんたん simpleでした。彼は二人の女女おんな women; femalesに関してに関かんして about; concerningよりも、専攻専攻せんこう one's (academic) specialtyの学科学科がっか study subjects; course of studyの方に多くの多おおくの much; great注意注意ちゅうい attentionを払って払はらって pay; giveいるように見えました。もっともそれは二学年目二学年目にがくねんめ second school yearの試験試験しけん tests; examsが目の前目めの前まえ before one's eyes; just aheadに逼って逼せまって approach; draw nearいる頃頃ころ time; periodでしたから、普通の普通ふつうの ordinary; typical人間人間にんげん human being; personの立場立場たちば standpoint; positionから見て、彼の方が学生らしい学生がくせいらしい student-like学生だったのでしょう。その上その上うえ on top of that; furthermore彼はシュエデンボルグシュエデンボルグ Emanuel Swedberg (Swedish scientist, philosopher, theologian, and mystic; 1688-1772)がどうだとかこうだとかいって、無学な無学むがくな unknowledgeable; uninformed私を驚かせました驚おどろかせました astonished; impressed。

我々我々われわれ we; usが首尾よく首尾しゅびよく successfully; in fine form試験試験しけん tests; examsを済ましました済すましました finished; concluded時時とき time; occasion、二人とも二人ふたりとも two (people); bothもう後後あと after; remaining一年一年いちねん one yearだといって奥さん奥おくさん Okusan (wife; lady of the house - used here as form of address)は喜んでくれました喜よろこんでくれました was pleased (on our behalf)。そういう奥さんの唯一の唯一ゆいいつの solitary; single; only誇り誇ほこり (source of) prideとも見られる見みられる be seen; be regarded (as)お嬢さんお嬢じょうさん daughter; young ladyの卒業卒業そつぎょう graduationも、間もなく間まもなく soon; before long; shortly来る来くる come; arrive順順じゅん order; turn (of events)になっていたのです。Kは私私わたくし I; meに向って向むかって turn toward、女女おんな woman; femaleというものは何にも知らないで何なんにも知しらないで without knowing anything学校学校がっこう schoolを出る出でる come out ofのだといいました。Kはお嬢さんが学問学問がくもん studies以外に以外いがいに other than; apart from稽古稽古けいこ practice; trainingしている縫針縫針ぬいはり sewing; needleworkだの琴琴こと koto (musical instrument)だの活花活花いけばな flower arrangementだのを、まるで眼中眼中がんちゅう consideration (lit: within one's sight)に置いていない置おいていない not place (within)ようでした。私は彼彼かれ he; himの迂闊迂闊うかつ oversight; inattentionを笑って笑わらって laugh; chuckle (at)やりました。そうして女の価値価値かち value; merit; worthはそんな所所ところ place; pointにあるものでないという昔昔むかし prior daysの議論議論ぎろん argument; discussionをまた彼の前前まえ front of; beforeで繰り返しました繰くり返かえしました repeated。彼は別段別段べつだん particularly; especially反駁反駁はんばく refutation; rebuttalもしませんでした。その代りその代かわり on the other hand; at the same timeなるほどという様子様子ようす sign; indicationも見せませんでした。私にはそこが愉快愉快ゆかい (cause for) joyでした。彼のふんといったような調子調子ちょうし mood; mannerが、依然として依然いぜんとして still; as ever女を軽蔑して軽蔑けいべつして look down on; view with contemptいるように見えたからです。女の代表者代表者だいひょうしゃ representativeとして私の知っているお嬢さんを、物の数物ものの数かず worth mentioning; worthy of considerationとも思っていない思おもっていない not think of; not regard (as)らしかったからです。今今いま now; the presentから回顧する回顧かいこする look back onと、私のKに対するに対たいする with respect to; regarding嫉妬嫉妬しっと jealousy; envyは、その時にもう充分充分じゅうぶん fully; sufficiently萌して萌きざして germinate; sproutいたのです。

私は夏休み夏休なつやすみ summer vacationにどこかへ行こう行ゆこう go (to)かとKに相談しました相談そうだんしました conferred; talked over (with)。Kは行きたくないような口振口振くちぶり manner of speaking; intimationを見せました。無論無論むろん of course彼は自分の自分じぶんの one's own自由自由じゆう free; independent意志意志いし will; volitionでどこへも行ける身体身体からだ body; personではありませんが、私が誘い誘さそい invitationさえすれば、またどこへ行っても差支えない差支さしつかえない unhindered; unimpeded身体だったのです。私はなぜ行きたくないのかと彼に尋ねて尋たずねて ask; inquireみました。彼は理由理由りゆう reason; rationaleも何にもないというのです。宅宅うち house; homeで書物書物しょもつ booksを読んだ読よんだ read方方ほう alternative (of two choices)が自分の勝手勝手かって preference; personal choiceだというのです。私が避暑地避暑地ひしょち summer resort (lit: place to escape the heat)へ行って涼しい涼すずしい cool所所ところ placeで勉強勉強べんきょう studyした方が、身体のためだと主張する主張しゅちょうする assert; contendと、それなら私一人一人ひとり alone; by oneself行ったらよかろうというのです。しかし私はK一人をここに残して残のこして leave behind行く気気き inclinationにはなれないのです。私はただでさえKと宅のものが段々段々だんだん gradually; bit by bit親しくなって行く親したしくなって行ゆく become close; become intimateのを見ているのが、余り余あまり (not) much好い好いい pleasant; agreeable心持心持こころもち feelingではなかったのです。私が最初最初さいしょ (from the) outset希望した希望きぼうした hoped for; desired通り通とおり just as; exactly asになるのが、何で私の心持を悪くする悪わるくする damage; harm; foulのかといわれればそれまでです。私は馬鹿馬鹿ばか foolに違いないに違ちがいない no doubt ...のです。果しのつかない果はてしのつかない interminable; without end二人の議論を見るに見かねて見みるに見みかねて no longer able to just watch奥さんが仲へ入りました仲なかへ入はいりました intervened。二人はとうとういっしょに房州房州ぼうしゅう Bōshū (place name; southern tip of Bōsō peninsula in Chiba Prefecture)へ行く事になりました事ことになりました was settled that ...。